2015-04-26

[] 『ソーシャルリンク』 その13

  床に這いつくばったまま、俺は自分能力について詳しく説明した。

「信じられないだろうから、実演して見せてやるよ」

  さっと目を走らせる。男ばっかりかと思っていたら一人だけ女がいた。

「そこの女とそこの男は夫婦だろ」

  まだ親指にギロチンのはまったままの不自由な手で、二人の男女を指さす。二人の間にはピンク色のリボンが渡されており、真ん中に結婚式で投げたであろうブーケが結ばれている。

「それも新婚だ。違うか?」

  オールバックの男が目を見張った。

「まだまだあるぞ。お前がこの中で一番偉い立場だろ。で、二番目はそいつだ」

  オールバックの斜め後ろに立っていた、七三分けメガネ男を指さす。オールバックの男に続いて、周囲から関係の厚い人物だ。

「あとは……」

  部屋の隅にぽつねんと立っている男が目についた。そいつの周りだけ、極端に周囲との関係性が薄い。集団最後尾に居て、青瓢箪とはこいつのためにあるのだと言うような、病弱そうな青白い顔をして周りをビクビクと伺っている。女だったらまだしも、男でこういうタイプは、どうもご遠慮したい感じだ。要するに、はぐれ者なんだろう。

  しかしそれをなんと言って指摘しようか考えあぐねいていると、オールバックの男が口を開いた。

「お前の能力が本物だと言うのは分かった。だが、そんな力、どうやって手に入れた?」

「あんた達の教祖様と一緒だよ。ちょっとした荒行をやったら身についた」

  そう、それこそ死ぬような荒行だった。というか死ぬ気だった。皮肉のつもりだったが、その場の空気が凍りつくように止まった。彼らは何かを牽制するように、目だけでお互いの顔を見合っている。

  オールバックの男は俺に背を向け、後ろの男達と円陣を組むと、肩を寄せあって何やらひそひそと相談を始めた。一分とせずに相談は終わった。オールバックの男は、また床に転がされた俺の前にしゃがみ込み、未だに俺の指にはまったままの酉のような形の拷問器具を外した。

「お前には使い道がありそうだ。生かしておいてやる」

  * * *

  それからずっと、俺は真っ白い部屋の中に監禁されている。あの後、部屋から人は居なくなり、代わりにマッチョ男がベットと便器を一つ持って入ってきた。ここに寝ろということらしい。拘束を解かれ、手足は自由になったが、部屋から出ることはできそうになかった。部屋の電気それからしばらくして勝手に消えた。窓もなく、今が夜なのか昼なのかも分からなかったが、おそらく消灯時間なのだろうと思い、ベットにもぐりこんだ。とても眠れないだろうという思いとは裏腹に、幕が下りるようにすっと寝入ってしまった。疲れていたのだろう。

  次の日、俺は鉄の扉の下から食事が差し入れられる音で目を覚ました。この部屋唯一の出入口である鉄の扉には、床からcmほどの位置に猫の通り道みたいな、小さな戸がついていて、そこから食器の乗ったトレイ差し入れられた。まるで監獄だ。メニューはパンと牛乳オムレツで、味の方は想像に反して美味かった。熱々でふっくらしたオムレツとパン。まるで高級ホテルの朝食だ。まるでと言ったが、高級ホテルで朝食を取ったことなどないから想像しかないが。

  朝食を取って、ベットの上でぼうっとしていると昼になったのか、また食事が差し入れられた。それも質素ではあるが中々美味い。しかし、退屈でしょうがない。何せ、することが何もない。部屋の中にあるのはベットとおまるのみ。まさかこの歳でおまるにまたがることになるとは思わなかった。それ以外は真っ白の壁があるのみ。見ていると、頭の中まで白に埋め尽くされるようだ。本当に時間が流れているのかさえ怪しくなる。囚人だってもっと充実した日々を送っているはずだ。

  だから扉に鍵が差しまれる音がして、ドアノブガチャリと回った時は飛び上がって驚いた。扉が開け放たれる。

調子はどう?」

  聞き覚えのある声がした。

「お前。この、裏切り者!」

  西織あやかだった。彼女ホテルルーサービスさながら、ワゴンを手で押して部屋に入ってきた。

「裏切ってなんてないわよ。最初から仲間じゃなかったんだから

「な、なんだと!」

「あんだけボカスカ殴っておいて、素直に言うこと聞くとでも思ったの?」

  そう言われると、ぐうの音も出ない。

「ほら、食事よ」

  見るとワゴンの上には、芳しい香りを立てるビーフカレーが乗っていた。本当に食事だけは申し分ない。

「あんたの世話は、私がすることになったから」

  彼女はおもむろにワゴンの上からカレー皿と水とスプーンの乗ったトレイ持ち上げ、それを床に置いた。そして、犬にでも言うような口調で言った。

「ほら、食べなさい」

  さすがにムッとした。俺の反抗的視線が不服だったらしい。

「何?」

  西織あいかは扉の前を離れて、俺に近寄ってきた。扉は開いたままだ。この場に居るのは女一人。チャンスだ。

  俺は腰掛けていたベットから飛び起き、彼女に躍りかかった。また首でも締めて意識飛ばしてやろう。怯むかと思った彼女は、しかし終始落ち着いた顔で、手早く腰から何かを引きぬたかと思うと、

「ひぎぃ!」

  俺の股間を強かに打ち付けた。目の前に火花が散った。俺はたまらず床に崩れ落ち、股間を押さえて尺取り虫のように床をのたうち回った。床から見上げると、西織あいかは俺を打ち付けた警棒を掲げて言った。

「ふふふ……私には逆らわないことね」

「くっそ……」

  彼女は俺を置いてワゴンを押して部屋を出て行った。扉に鍵をかけるのも忘れない。俺は股間の痛みが引くまで、しばらく床をのたうっていた。痛みが引くと今度は自分が哀れに思えてきて、

「うぅ……うぅう……」

  まるで乱暴された乙女のように、めそめそと泣いたのだった。

  * * *

前 http://anond.hatelabo.jp/20150420074500

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