床に這いつくばったまま、俺は自分の能力について詳しく説明した。
「信じられないだろうから、実演して見せてやるよ」
さっと目を走らせる。男ばっかりかと思っていたら一人だけ女がいた。
「そこの女とそこの男は夫婦だろ」
まだ親指にギロチンのはまったままの不自由な手で、二人の男女を指さす。二人の間にはピンク色のリボンが渡されており、真ん中に結婚式で投げたであろうブーケが結ばれている。
「それも新婚だ。違うか?」
オールバックの男が目を見張った。
「まだまだあるぞ。お前がこの中で一番偉い立場だろ。で、二番目はそいつだ」
オールバックの斜め後ろに立っていた、七三分けのメガネ男を指さす。オールバックの男に続いて、周囲からの関係の厚い人物だ。
「あとは……」
部屋の隅にぽつねんと立っている男が目についた。そいつの周りだけ、極端に周囲との関係性が薄い。集団の最後尾に居て、青瓢箪とはこいつのためにあるのだと言うような、病弱そうな青白い顔をして周りをビクビクと伺っている。女だったらまだしも、男でこういうタイプは、どうもご遠慮したい感じだ。要するに、はぐれ者なんだろう。
しかしそれをなんと言って指摘しようか考えあぐねいていると、オールバックの男が口を開いた。
「お前の能力が本物だと言うのは分かった。だが、そんな力、どうやって手に入れた?」
「あんた達の教祖様と一緒だよ。ちょっとした荒行をやったら身についた」
そう、それこそ死ぬような荒行だった。というか死ぬ気だった。皮肉のつもりだったが、その場の空気が凍りつくように止まった。彼らは何かを牽制するように、目だけでお互いの顔を見合っている。
オールバックの男は俺に背を向け、後ろの男達と円陣を組むと、肩を寄せあって何やらひそひそと相談を始めた。一分とせずに相談は終わった。オールバックの男は、また床に転がされた俺の前にしゃがみ込み、未だに俺の指にはまったままの酉のような形の拷問器具を外した。
「お前には使い道がありそうだ。生かしておいてやる」
* * *
それからずっと、俺は真っ白い部屋の中に監禁されている。あの後、部屋から人は居なくなり、代わりにマッチョ男がベットと便器を一つ持って入ってきた。ここに寝ろということらしい。拘束を解かれ、手足は自由になったが、部屋から出ることはできそうになかった。部屋の電気はそれからしばらくして勝手に消えた。窓もなく、今が夜なのか昼なのかも分からなかったが、おそらく消灯時間なのだろうと思い、ベットにもぐりこんだ。とても眠れないだろうという思いとは裏腹に、幕が下りるようにすっと寝入ってしまった。疲れていたのだろう。
次の日、俺は鉄の扉の下から食事が差し入れられる音で目を覚ました。この部屋唯一の出入口である鉄の扉には、床から十cmほどの位置に猫の通り道みたいな、小さな戸がついていて、そこから食器の乗ったトレイが差し入れられた。まるで監獄だ。メニューはパンと牛乳とオムレツで、味の方は想像に反して美味かった。熱々でふっくらしたオムレツとパン。まるで高級ホテルの朝食だ。まるでと言ったが、高級ホテルで朝食を取ったことなどないから想像でしかないが。
朝食を取って、ベットの上でぼうっとしていると昼になったのか、また食事が差し入れられた。それも質素ではあるが中々美味い。しかし、退屈でしょうがない。何せ、することが何もない。部屋の中にあるのはベットとおまるのみ。まさかこの歳でおまるにまたがることになるとは思わなかった。それ以外は真っ白の壁があるのみ。見ていると、頭の中まで白に埋め尽くされるようだ。本当に時間が流れているのかさえ怪しくなる。囚人だってもっと充実した日々を送っているはずだ。
だから扉に鍵が差し込まれる音がして、ドアノブがガチャリと回った時は飛び上がって驚いた。扉が開け放たれる。
「調子はどう?」
聞き覚えのある声がした。
「お前。この、裏切り者!」
西織あやかだった。彼女はホテルのルームサービスさながら、ワゴンを手で押して部屋に入ってきた。
「裏切ってなんてないわよ。最初から仲間じゃなかったんだから」
「な、なんだと!」
「あんだけボカスカ殴っておいて、素直に言うこと聞くとでも思ったの?」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
「ほら、食事よ」
見るとワゴンの上には、芳しい香りを立てるビーフカレーが乗っていた。本当に食事だけは申し分ない。
「あんたの世話は、私がすることになったから」
彼女はおもむろにワゴンの上からカレー皿と水とスプーンの乗ったトレイ持ち上げ、それを床に置いた。そして、犬にでも言うような口調で言った。
「ほら、食べなさい」
「何?」
西織あいかは扉の前を離れて、俺に近寄ってきた。扉は開いたままだ。この場に居るのは女一人。チャンスだ。
俺は腰掛けていたベットから飛び起き、彼女に躍りかかった。また首でも締めて意識を飛ばしてやろう。怯むかと思った彼女は、しかし終始落ち着いた顔で、手早く腰から何かを引きぬいたかと思うと、
「ひぎぃ!」
俺の股間を強かに打ち付けた。目の前に火花が散った。俺はたまらず床に崩れ落ち、股間を押さえて尺取り虫のように床をのたうち回った。床から見上げると、西織あいかは俺を打ち付けた警棒を掲げて言った。
「ふふふ……私には逆らわないことね」
「くっそ……」
彼女は俺を置いてワゴンを押して部屋を出て行った。扉に鍵をかけるのも忘れない。俺は股間の痛みが引くまで、しばらく床をのたうっていた。痛みが引くと今度は自分が哀れに思えてきて、
「うぅ……うぅう……」
まるで乱暴された乙女のように、めそめそと泣いたのだった。
* * *
鼻の奥にツンとした血の臭いを感じて目が覚めた。目を開けるとさっき見たようなマッチョの男の顔が見えた。同一人物かどうかは分からないが。 「目を覚ましました」 ほっぺ...
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もう少し我慢して書けよ・・・
自分の芸術作品をひと目が多いからという理由で迷惑も顧みず投降してしかも文体そっくりの奴がトラバつけてたらくっせぇなぁ自分のブログでやれと思われるのは当然だよな
増田ではどんどん流れていくし他のエントリもあるんで小説投稿には向いてない。 なろうにでも同時に上げてくれよ。
さっさと続き書けよ