鼻の奥にツンとした血の臭いを感じて目が覚めた。目を開けるとさっき見たようなマッチョの男の顔が見えた。同一人物かどうかは分からないが。
「目を覚ましました」
ほっぺたが痛い。どうやら俺の目を覚ますためにビンタでもしてくれたらしい。男は俺の覚醒を確認すると、すっと立ち上がって俺の元を離れた。俺は縛られて床に転がされている。首だけ動かして周囲を伺うと、ここは六畳ほどの小さな部屋のようだ。窓は無い。真っ白いタイル張りの床と、壁。どこか牢獄めいた雰囲気を醸している。鉄格子ではないが、入り口は無骨な灰色のドアのみ。その前に数人の男が立っている。全員、白いローブを着ている。普段こんな格好をしている奴に出会ったことはない。ニュースで時々見るローマ法王がこんな格好をしている気がする。
俺をビンタしたらしい男が部屋の外に出て行くと、代わりにぞろぞろと、白いローブ姿の男達が部屋に入ってきた。先頭にいるのは、短髪をオールバックに整えた細面の男。多分、こいつがこの中で一番偉い立場にいる奴なんだろう。周囲の人間から尊敬や畏怖を表しているらしき関係が伸びている。
「お前か、最近教団を探ってたっていうのは」
男の声は見た目に似合わぬ甲高い声だった。
オールバックの男は床に這いつくばった俺の顔を覗きこんで、問い詰めてきた。
「き、気まぐれだ」
「気まぐれか。警察手帳の偽装までしたのも、気まぐれか。勘がいいんだな」
彼はハッと鼻で笑って、
「ふざけるな!」
途端声を荒らげた。おもむろに後ろの男に目配せすると、後ろの男はさっと金属でできた何かを手渡した。漢字の酉みたいな形をしている何かだ。オールバックの男はずっしりと重そうなそれを、手のひらの上で弄んでいる。瞬間、凶悪なきらめきが目に入る。五センチほどの大きさの、ギロチンのミニチュアみたいな刃が、蛍光灯の明かりを受けて光っていた。
「おい、手出せ」
その一言で、男達の一番後ろに控えていたさっきのマッチョがまた前に出てきて、俺の腕を後ろ手に縛っていたロープをほどいた。俺を床にうつぶせに転がし、押しつぶすように背中に乗ってきた。息がつまる。さらに左腕の関節をキメられた。身動き一つできない。
「いててて……」
マッチョ男はさらに俺の右手首を握り、オールバックの男に向けて付き出した。オールバックの男は、手の中の酉をカチャカチャと操作している。四角いフレームに渡された、二本の金属棒の間に俺の親指を挟むと、
「俺達が何をしたのか知っているんだろう?」
カチャカチャと、ネジを回して固定した。
「男をいたぶっても、楽しくもなんともないが」
カチャカチャ……
オールバックの男は、俺の右手の親指に重々しい器具を装着し終わった。この器具は、一体……うろたえる俺をよそに、オールバックの男は器具のてっぺんについたハンドルを回し始めた。キリキリと音を立てて、ハンドルが回る。小型の万力みたいだ。普通の万力は閉めることで物を挟んで固定するのに使うが、こいつは──
「言う! 言うからやめてくれ!」
虚勢も何もかも吹っ飛んだ。今も男がハンドルを回す度に、一ミリずつギロチンの刃が降りてきている。その刃の向かう先は、固定されて動かせない俺の親指だ。
「本当かぁ~?」
詐欺師でも見るような目で俺を見て、オールバックの男は言った。その間もハンドルを回す手を休めない。
「まあ、そう慌てるなよ」
「親指の一本や二本、落とした後でも遅くないだろ?」
こいつは本気だ。本気で俺の指のことなんてどうでもいいと思っている。もう、刃が指に食い込む。
「やめ! やめて! 写真! 写真を見たら分かったんだよ! 卒アルの!」
「卒業アルバム! 集合写真! 高橋圭一の、卒業アルバムの集合写真!」
「嘘をつくな。そんな物で」
頭がこんがらがってうまく説明できない。ギロチンの刃が指の皮膚に触れた。気が狂うほどの冷たさを感じる。
「本当! 嘘じゃない!」
恐怖ともどかしさを振りきって、俺は筋の通った説明を頭の中で組み立て、
「俺は写真を見るだけで、そいつが持ってる周囲との人間関係が分かるんだ! だから卒業アルバムの写真から関係をたぐって! 田中に行き着いた! あと西織あいかにも! だから教団が怪しいと思った!」
「なるほど。にわかには信じがたいが……」
逆回しにハンドルを回し始めた。俺の親指に食い込んでいたギロチンの刃が少しずつ上に上がっていく。
「詳しく話を聞こうか」
はーっと大きくため息をついたその時、親指の傷口に滲んだ血が一滴、つっと流れた。
夜、俺は昨日西織あいかを送り届けたマンションの前に立っていた。一応自分の事務所の様子を遠巻きに見てきたが、やはり警察の捜査が入っていた。サングラスにマスクなどとい...
写真の中の高橋圭一には、今も手錠で作られた鎖ががんじがらめに絡まっている。もう一方の鎖の先は、共犯者に繋がっているものだと思っていたが…… 「冤罪、か」 翌日、俺...
暴力の効果は絶大だった。拳を三回腹の上にふり降りしてやると、先程までの騒動が嘘のように西織あいかはおとなしくなった。今ではソファの上でぴくりともしないでいる。 「手...
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。これはいくらなんでもやばい。ソファに横たわる女を横目...
結局、不自然な言動をしたのは独身寮に住んでいた田中一人だった。翌日から俺は彼の寮の前に張り込みを始めた。朝、日の出前に起きてチャリで一時間かけて彼の最寄り駅まで。...
事務所兼寝床に帰ってきた頃には始発が動き出す時間になっていた。興奮冷めやらぬままソファに腰掛ける。リュックから盗ってきた卒業アルバムを取り出した。パラパラとめくる...
さて、この事件を捜査すると決めたのはいいが、何から手を付けたらよいものか。まさか高橋圭一の写真を持って、鎖の先に繋がっている共犯者が見つかるまで街をうろつくわけに...
佐々木探偵事務所。占い屋の看板を下ろして、俺は事務所に新しい看板を掲げた。浮気調査專門の探偵をやることにした。人探しや素行調査も請け負おうかと思ったが、やはり浮気...
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統合失調症。ありもしない幻覚や幻聴に悩まされる精神の病気。認知の歪みから被害妄想に陥ることもある…… 読んでいた本を机に投げ出し、俺はソファに横になった。アパー...
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文章あまり上手くないなーと思いつつ、新聞小説を読む気分で楽しんでいる。 めちゃくちゃ面白いわけでもないが、これまで主人公の立場が二転三転して、続きが気になるようにはなっ...
もう少し我慢して書けよ・・・
自分の芸術作品をひと目が多いからという理由で迷惑も顧みず投降してしかも文体そっくりの奴がトラバつけてたらくっせぇなぁ自分のブログでやれと思われるのは当然だよな
増田ではどんどん流れていくし他のエントリもあるんで小説投稿には向いてない。 なろうにでも同時に上げてくれよ。
床に這いつくばったまま、俺は自分の能力について詳しく説明した。 「信じられないだろうから、実演して見せてやるよ」 さっと目を走らせる。男ばっかりかと思っていたら一...
さっさと続き書けよ