2015-02-03

何故、余っていたはずの会計士が足りないのか。

今日会計士不足に関する日経記事が地味に注目を集めているようだ。

会計士不足が深刻 合格者減、採用枠に届かず」http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD26H7W_S5A200C1AM1000/

日経記事によれば、原因は金融危機後に監査法人採用を絞り、会計士離れが進んだためだそうだ。そんなに単純な話ではない。某監査法人シニアマネージャーをしていたものが、業界から見たこの10年の会計士需給の変遷と背景を書いておきたいと思う。

会計士試験合格者数は2000年の838人から徐々に増えて2005年時点で1308人。1990年の634人から2000年の838人と前の10年間での合格者数の増加が200人であることを考えれば、5年で470人増は大きな増加であるが、2005年の増加までは、需要の増加(上場企業数の増加、監査手続厳格化M&Aコンサルファームへの人材流出など)に概ね見合ったものであったといえる。

さて、翌2006年合格者は何人になったか。3108人。一気に1800人増。前年比238%。2007年は?4,041人。2008年は?3,625人。もうね。何というか。誰が見てもオカシイ。こんなの持続可能なわけないだろ。

2005-7年が人材需要のピークだった。2008年から四半期決算制度の導入と内部統制報告制度上場企業義務化され、さらにその2年前くらいから準備支援業務で人手が膨大に必要となったためだ。

制度改正までに人材経験を積ませるため、また当時の環境は人さえいえれば幾らでも仕事があったため(仕事が多すぎて倒れる人も多かった)、各監査法人は単に公認会計士受験生というだけの一般人採用も開始した。もともと公認会計士の人数を増やしたかった金融庁は大喜びで合格者数を爆発的に増加させた。そして監査法人は大喜びで彼らを採用した。それが2006年の3108人合格の背景だ。当然ながら合格者の質は酷く、一流企業に連れて行くのが恥ずかしかった。後々に大きな禍根も残した。

私が所属する大手監査法人では当時4000人程度の人員に対して、2006年2007年は700人ずつくらいの人員を採用していた気がする。ほかの大手監査法人も同様であった。2007年にはすでに現場では需要の陰りを感じていたため、ある集会で理事長含む経営層に対して、需要の落ち着きは間近に迫っている、特に2007年のこの人数の採用経営的に危険だということを言ったことがある。会計士業界戦後右肩上がりしかしらず、かつ試験が難しかった時代が続いたため慢性的供給不足であった。そのため、経営からの回答は、人がいれば仕事はなんとかなる、IFRSの導入も次の波として見えているか問題ない、というものだったと記憶している。心に暗いものがすべり落ちていった感覚を今でもよく覚えている。

果たして2008年リーマンショックが起きた。まず監査以外のコンサルティング業務の収入が大きく落ち込んだ。次に企業業績の低迷による監査報酬の落ち込みである。ところで監査というのは不思議な業務で、リーマンショックのような不況企業の業績が悪化すれば、粉飾のリスクは増すので監査工数は増やすべきであるしかし、現実には監査報酬を払っているのは企業であるため、業績悪化に伴い監査報酬が減額されてしまうのだ。会計士立場というのは特に大手企業経営層に対しては非常に弱い。よく会計士企業馴れ合いという問題提示を目にするが、馴れ合いは古い問題であり、現在問題は脅しに近いプレッシャーである。粉飾に手を貸したり見逃したりすることは刑事上の犯罪となり収監される可能性があるため、監査契約を切るぞと脅されてもそれは通常ありえない。しかしながら、監査手続を受け入れ可能な極限まで減らせとか報酬を減らせ、さもなくば監査法人を変えるぞというプレッシャー日常茶飯である。通常の私企業同士の契約という立て付けで行われているため、それが正常ともいえる。大手監査法人大手企業契約ひとつふたつ切られてもビクともしないが、内部の個々の会計士にとっては事情が違う。担当する大手企業から契約を切られれば、出世の終わりを意味する。ファームはup or outであるため、出世の終わりはリストラ対象となる可能性を意味する。リーマン後の状況である企業だって必死である報酬の減額は飲まざるを得ない。そして監査法人赤字になった。監査法人パートナーシップであるため内部留保が薄い。経営環境に即応しなければすぐに債務超過になってしまう。

こうして過激なリストラが始まった。どこの企業でも業績下降期に行うことは一緒である。まずは新規採用者の絞込み。本音ではゼロにしたかったとも聞いたが、金融庁要請社会的責任もあり大手3監査法人は200人くらいずつは採用していた気がする。2009年合格者数は2000人以上。。。次にリストラ。まず対象となったのは需要の最盛期に無資格採用され、その後試験合格していない人たち。次に06-08の質の低い合格者。シニアという入所3年経過時での昇格階段ストップさせられ、退職に追い込まれた。何度も面接が行われ、君の将来のために早めの転進をお勧めするいうことが繰り返し告げられ、多くの人(雰囲気に嫌気がさした優秀な人含む)が辞めて行ったが、まだ風化していないためこれ以上語るのはやめよう。日経記事では金融危機後に監査法人採用を絞ったことが会計士受験離れを招いたというが、民間企業として監査法人が営まれている以上その行動は自然であるし(その前の異常な採用増は明らかに誤った経営判断であるが)在籍者に過激なリストラをしている状況で新卒をたくさん採れというのは無理がある。一方で合格者の供給が減らなかったことも同程度に問題であろう。当時の金融庁は、上場企業経理部普通に会計士がいる状態にしてディスクロージャーの質を高めたい、そのためにもっともっと民間企業需要を掘り起こせばなんとかなると考えていた。

2006年くらいまでの会計士は、総合商社でもグローバルメーカーでも大手メディアでも比較的容易に転職できていた(部署が経理とか経営企画とかでよければだけど)。2008年までに一流企業需要ほぼほぼまりリーマン後は、会計士を求めた企業東証2部や地方上場企業の経理まで会計士があふれた。金融庁理想は早々達成に近いところまで来てしまった。2009年採用市場悲惨だった。2292人の合格者に対して監査法人中小含む)から求人1000人に欠けていただろう。金融庁は、企業会計士需要はあるとして合格者数を減少させる動きが鈍く、2010年も2000人以上を合格させた(2041人)。前年からの待機合格者が数百人もいたにも関わらずである。泥沼である合格者に民間企業需要があると言うが、企業の定期採用と全く異なる時期に、試験合格しただけで実務経験のない会計士を雇いたい企業が多くあるだろうか。この時代である会計士合格者がパチンコ店コンビニバイトしかできず問題になったのは。アメリカ公認会計士数は30万人(2009年で34万人)、日本は3万人(2014年で3万4千人)、だから日本公認会計士は少ないとよく言われる。しかアメリカ公認会計士日本で言う税理士包含した資格である日本には税理士2014年で7万4千人いる。経済規模が3.6:1(2014)であることを考えれば、むしろ会計プロフェッションの人数に既に差はない(むしろ日本のほうがやや多い)のだ。

待機合格問題2012年くらいまで続き、その後解消されたように見える。金融庁は、民間企業会計士需要が既に満たされていることを2011年に認めたようであり、合格者は1500人にまで縮小した。2006年の狂想曲以前の水準までようやく戻ったのだ。しかし実際に痛みを被った側は、なかなか痛みを忘れない。需給が回復した後も受験者数は下げ止まらない。「公認会計士受験者が過去最低 14年、前年比18%減」http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC14H0D_U4A111C1EE8000/

余談だが、社会人出身合格者が就職問題前よりも大きく減少したと思われる。2006年試験制度改革合格者増と社会人割合の増加を旗印にしていたが、社会人合格者増については、予想されたとおりだが、完全に逆の結果を生んだ。受かっても再就職できるか不透明試験のために身を投じる社会人は多くない。試験は難しくても合格すれば就職できると分かっている試験のほうが社会人には受けやすい。試験制度改革を担う方々は、司法試験も全く同じだが、現行制度プロコン分析をきちんとせずにとりあえずアメリカの真似をすれば改革だと思われているフシがある。そして結果の責任を取ったものは聞かない。全く聞かない。

受験者数が下げ止まらないため合格者を増やせず、需要回復しても合格者数は減少の一途。そのための人手不足なのである2014年受験者数は10870人。14年前と同じ水準である合格者数は1102人。会計士試験合格率は長年6-8%に保たれてきたが、今年は10.2%。質を下げてギリギリまで合格者を増やしても、受験者が少ないので合格者がまだ足りないのである

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