学生時代、全体集会で国語科の教師から『みなさんへのお願い』があった。
図書室の本がパクられて困っている。大切な本です。みなさん盗らないでください。
そんな内容のことを淡々と、まるで事務連絡でもするかのように仰った。
実に柔和な声色であり、生徒を叱っているようには聞こえない。
学生だった私は『そんな不届き者がいるのか』と思っただけだったが、今考えればとんでもないことだ。
教員は徹底的に犯人を捜索し、サツに突き出すべきであった。教育者としてそうすべきだった。
少なくとも頭髪検査やスカート丈を測るよりはるかにプライオリティが高い事案だ。
むしろ丸坊主を強制したりする意味不明な校則こそが自由の侵害、すなわち犯罪であり、教員の愚行たるもの言語に絶する。
図書室の本をパクった生徒はそのまま社会に出て、きっとまた別のものをパクっているだろう。
そしてその穴埋めを遵法者がしている。この社会が回らなくなる日は近い。