■私の嫌いな彼女の話

あまりにも自分の考えが理不尽すぎて誰にも言えやしないので、ここで書き捨てる。

“彼女”はとても優しくて賢くて美しいひとだ。

友達は多く、英語はペラペラで、旦那さんは一流企業にお勤め、彼女自身の出自も大変よろしい。

知る人ぞ知る非上場の製造メーカーである我が社で毎日、体を壊すくらい一生懸命仕事をしていて、その仕事が確実に会社のためになっていることが受注率とか売上といった数字にも如実に現れている。

尊敬されて崇拝されて大事にされて…当然の人材だと思う。

ところが、彼女は言う。

「なんで私、こんなに叩かれるの？」

「こんなに頑張ってるのに批判ばっかりされて、一体どうしたらいいの？」

「女だから？」

「中途入社だから？」

そう言いながら、更衣室で、トイレの片隅で、電話の向こうで、涙を流す。

「なんでだろうね」

「ひどいよね」

と、彼女を慰めながら…

そうやって“ひけらかすから”、なんだけどなぁ…という一言を私は飲み込む。

実は一度、言ったことがある。

「私、○○さんとは親しいから」

「××さんが言ってたんだけど」

「あの部署で一番まともな人って誰？」

「なんで、私ばっかりこんなに忙しいの？」

「みんな私に相談してくるんだよね」

悪気がないのは分かっているけどそれらの言葉を不快に感じる人もいるから、あまり声高に言わない方がいいよ、と。

結果、とても…憤慨された。

“悪気ない”“事実を言ってる”だけなのにそんな曲解するなんて！！　と。

曲解される可能性がある　⇒　以後、意識してそのような言動を控える、という思考回路の私は、そのときとてもビックリして…そして、挫けた。

間違っているのは「曲解する方」　⇒　その曲解の根本に彼女に対するコンプレックスが潜んでいるならその曲解は不当　⇒　努力もせずに妬み、嫉み、僻む者の方が悪い。

それを覆す理屈を、私は持っていなかったので。

ついでに言うなら…本当は「私が」不快なのだ、ということを「そう言う人も居る」というオブラートに包んで伝えたら、きっぱり言い返されてしまった気まずさと後ろめたさがあったので。

その日以来、私は彼女に親身のアドバイスをしていない。

彼女の憤慨や泣き言（正当なものもあるし、被害妄想にしか思えないものもある）に対しては「そうだね」「ひどいね」「なんでだろうね」を繰り返し、『どうしたらいいと思う！？』と訊かれたら「うーん、問題が複雑すぎて…私なんかにはとてもとても…」と返している。

彼女は誰彼構わず自分の正直な気持ちを吐露している。

それが回り回った結果、最悪の人に最悪の状態で伝わってしまい、彼女の足元をすくうことが多い。

あんまり色んな人に色んなこと言わない方が…と言ったこともあるが「信頼できる人にしか言ってない」そうなので…まぁ、本人がそう言うなら…と放置。

「（年収）700万～1,000万の間だって言われて入社したのに、実際は300万足らずしか貰えてない」

「こういうの誰に訴えれば改善して貰えるの？」

…自分の給与額に対して抗議するなんて考えたこともないから分かりません…。

「◎◎さんが××さんに～～～（なんか小姑的な指摘）って言われたらしいよ。いい娘なのになんで？」

「◎◎さんこないだも泣いてたし…スゴく心配なんだよね」

…自分のあずかり知らぬ所で勝手に話題にされてることの方が可哀相だ…。

「△△さんは、○○役員のお気に入りらしいよ」

「××さんと◇◇さんは仲悪いからさ」

…16年いる私より、転職してきて2年目のアナタの方が色々詳しいね…そりゃ、あれだけ屈託なく聴き回ってれば情報通にもなる、か…。

彼女は、私を「少なくとも自分を敵視してはいない」と判断しているから色々とこぼすのだろうけど、本当は私、彼女を「叩いている（と彼女が主張している）」人たちと同じ気持ちなんだと思う、

ただ、影響力や行動力がないから彼女に害をなさないだけで。

最近、彼女の朗らかな笑い声（あちこちに“仲いい”人が居る彼女は、行き会えば必ずその一人一人に何かしら声を掛ける。その行為が「無駄話ばかりしている」とバッシングされた、と泣いていたこともあった）が聞こえると、隠れる場所を探してしまう。

話していると、自分の中のモヤモヤした気持ちが肥大するのですごく疲れてしまうから。

今日はこんなこと言われた、誰があんなことされてた、でも何々さんは味方で居てくれる、また大量の仕事を片付けなきゃならなくなった…後から後から出てくる彼女の言葉に「大変だね」「困ったね」と返しながら『またか』『いい加減にして欲しい…』『自業自得だし』と思っている。

でも、誰にも言えない。

万が一、彼女の耳に入ったら…。

それは、もう、大変な…悲劇となってあちこちに語られるであろうことを想像すると…心底ゾッとするので。

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