昔々あるところに肩書きだけの役職付きのSEをやっているおじいさんと、派遣でテレアポをやっているおばあさんが住んでいました。
おじいさんは通勤ラッシュを避けるために早朝から会社に、おばあさんはフレックスと言いながら昼前に出社しました。
おじいさんが窓際で仕事をしてる振りをしながらソリティアをやっていると、上流(工程)からどんぶらどんぶらこと曖昧な仕様が流れてきました。
おじいさんは、これは大きな仕事だ、おばあさんもびっくりするに違いないと思い、こっそりUSBメモリに入れて家に持ち帰りました。
その晩のことです。おばあさんと二人、USBに入れた圧縮ファイルをえいやっとばかりに解凍すると、中から社外秘と書かれたコンペ用の資料がいくつかと、安い金額で外注に使われている学生ベンチャーの履歴書が入っていました。
おじいさんとおばあさんは可哀想に思い、その学生ベンチャーに桃太郎と名付けて可愛がることにしました。
親会社から横流しにした情報を使い、桃太郎は、何度かプレスリリースには乗るけどしばらくすると誰も使っていないサービスを作るほどに成長しました。
ある日、桃太郎は言いました。
「おじいさん、おばあさん、今日まで育ててくれてありがとうございます。僕は今から海を渡り、世界を目指します。任天堂の倒し方教えてあげます」
おじいさんとおばあさんは大層驚きましたが、桃太郎のために立派なスーツと日本一と書かれたホームページを作ってあげました。
桃太郎が旅を始めてしばらくすると、大学を休学して起業を目指すイヌと名乗る若者に出会いました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰ににつけたストックオプション、一つ私に下さいな。そうすれば一生懸命働きましょう。学生アイデアコンテストで審査員賞を取った私です、きっと役に立つはず」
またしばらく旅を続けると、木下藤吉郎と名乗る若者に出会いました。
「私は中卒ですがアメブロやFacebookを使って不労所得を得て暮らしています。どうです?あくせく働くのはやめて勝ち組になりませんか。お腰ににつけたストックオプション、一つ私に下さいな。そうすれば今だけ特別のこの方法を教えますよ」
桃太郎はストックオプションをもぎ取って与えました。木下藤吉郎の言う方法は同じことを10人に言えば良いというクソッタレな内容だったのでぶん殴ると、私のことはサルとお呼び下さいと謙虚になり、一緒についてくることになりました。
桃太郎、イヌ、サルの三人が旅を続けると、キジと名乗る壮年の男が現れました。
「君たちには見どころがある、私は色々Facebookには1000人のフレンドがいるほど人脈もあり経験も積んだ人間だ。君たちを更なる高みへと連れて行ってあげよう。なあにストックオプションをくれて非常勤取締役にしてくれるだけで良い」
桃太郎は言われた通りにすると、キジがついてくることになりました。後で分かりましたが、人脈と言いつつ首を突っ込んでくるキジは煙たがられていました。
桃太郎たちは残った最後の株を投資家に売り払うと、海外に繰り出しました。
桃太郎たちの戦いは熾烈を極めました。言葉の壁、技術的な隔たり、そもそものアイデアが貧弱であること。
戦い続け、最期にはシリコンバレーの投資家達にもう来ないでくれと言われるほどになりました。
桃太郎たちはシリコンバレーで起業していた、という肩書きを誇らしげに掲げて日本に帰りました。
その後、どうやらその経験を生かして本を書いたり、学生ベンチャーに能書きを垂れたりしていたようですが、詳しいことはわかりません。公式ブログも去年のお正月の話から更新されていないようです。
めでたし、めでたし。
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http://nlab.itmedia.co.jp/nl/spv/1309/18/news080.html
に触発されて書いてみました。