2013-09-14

http://anond.hatelabo.jp/20130914120315

(1)疑問:「死刑制度」に意味はあるか?

罪を犯して罪を償うのは、当然のことです。では、犯罪者から命を奪えば、彼(ないしは彼女)は「罪を償った」ことになるのですか?

それで「イイキモチ」になるのは、ハッキリ言えば事件に関係のない第三者だけではないですか? いい気味だ、ざまあみろ、自業自得だ、正義は為された。…etc。そんなことで、被害者の心は本当に癒されるのでしょうか?

大阪教育大附属の児童殺傷事件の犯人宅間守は、「死にたかったが自殺する勇気がなかった」「死刑になれる相手なら誰を殺してもよかった」「子供をねらったのは殺しやすかったから」そして、死刑判決が出て、遺族に何か言うことがあるか、と聞かれ「あの世でもう一回お前らの子供を○してやるわケッケッケッ」…という趣旨の発言をしたそうです。

こういう人間をただ殺して、それで遺族は本当に心が癒されたと思いますか?

日本社会では、問題が起こると、当事者が「責任をとって辞職」したりします。しかし、それは本当に「責任を取った」ことになるのでしょうか。

特に事故など、今後の対応が重く、長く、苦しい、果てしないものになることが想定されるとき、そんな対応から逃げ出したくなっても無理ありません。そんなとき、「辞職したか責任取った」と得意気に言われると、むしろ殺意が湧きませんか? それはむしろ無責任」の一形態に過ぎないのではないでしょうか。

(2)主張:死刑制度には意味がない。

私が死刑などやめた方がいい、と思うのは、それが無意味からです。本当の意味で「罪を償わせる」ためには、生かして、生かして、長生きさせて、どんなに苦しくても一生をかけて自分のやったことと向き合わせる。「償う」などということが実際に可能であるか否か、それは分かりません。しかし「罪を償う」などということが、もしできるのだとしたら、そういう地道で苦しいやり方の中にしかあり得ないと思うからです。

(3)論拠:死刑制度肯定論とそれへの反論、問題点の指摘

よく主張される「死刑見せしめとして役に立つ」という意見。ですが、これまで死刑が廃止になった国で、凶悪犯罪が増大したというデータはないので(むしろその逆です)これは否定されます(※)。死刑に「犯罪抑止効果がある」という意見にはエビデンスがない。また、死刑には、受刑者本人に対する教育役割(刑を受けることで、罪悪感を感じ、社会復帰への道が開ける)がないことは明らかであり、経済効果についても、無期刑に比べてコストが安いということも無いのです(人を監禁して殺す、というのは簡単なことではありません。そのための特別の施設、管理者、担当者手続き……様々に膨大なお金がかかっています)。

更に、よく言われることですが、死刑は不可逆であるというその性質から冤罪が発生したときに取り返しのつかないことが起こりかねない、もっと言えば、取り返しがつかないだけに「『取り返さないでおこう』という圧力が発生する」という危険も指摘できます

死刑制度には、合理的に見ればこれだけの問題があり、普通に考えればむしろ「無くす」のが当然の立場なわけです。ご理解いただけたでしょうか?

(4)発展:ではなぜ死刑は無くならないか

それでは、次の問題。これだけ問題のある死刑制度が、アジア圏で根強く残るのはなぜなのか? これを考えてみたいと思います

死刑を残す国々(日、韓、中など)は、どれも同程度に人権意識が低いのでしょうか? これらの国々は、民主主義的にみせていても、その実、全体主義的な管理社会からなのでしょうか?

いろいろな理由は考えられますが、私は、これらの社会が、依然として「家、一族」を基盤とする封建制社会の気風を残しているからではないかと考えています

「家、一族」を基盤とする封建制社会は、「個人」に対する毀損を、「一家、一族」に対する毀損と見なします。「個人」を基盤とする社会にも、もちろん特定の個人との絆からくる個人的な「復讐」は発生するわけですが、「家、一族」を基盤とする社会では、「個人」に対する毀損が「家、一族」あげての「復讐」、つまり「敵討ち」引き起こしかねない。だから、これらの国家で秩序を保つためには、国民勝手に「敵討ち」をしないようにする…つまり公権力による敵討ち代行」を、制度として保証するしかない。それが、これらの国における「死刑制度」の意味なのではないか

「日、韓、中」が、近代社会における刑罰としての「死刑制度合理性がないと分かっていながら、その廃止に踏み切れない理由は、これらの社会がもつ潜在的な「敵討ち」の論理のせいであり、これらの国で国民死刑が支持されているのは、依然としてこの国の人々が「敵討ち」大好きだからなのではないか、と思っています

(5)展望死刑制度日本社会の今後

従って、核家族化が進行し、家族関係欧米化していけば、いずれは日本でも、死刑は廃止されるのではないでしょうか。ごく自然の流れとして。そうなっても不思議はない、と私は考えています。少なくとも、死刑を廃止した国々が「人の命を軽んじている」わけでも、「罪を償わせるシステムをもたない」わけでも、被害者を軽んじているわけでもない、ということさえ理解していれば、死刑廃止論というのを、まるで非現実的な論のように批判するのがおかしいことは、理解できるはず。そこで考えるべきなのは、「なぜ他の多くの国と違って、これらの国では死刑がなくせないのか」です。

(6)終わりに

最後に、ちょっと厳しいことを一言

死刑廃止論感情論だと決めつけて、叩く。そういうのを「案山子論法」と言います。相手の実体でなく、自分勝手に想定した案山子のような無力な「敵」を相手に、(自分の中では)華麗にワン・ツーを繰り出し、ノックアウトする。気持ちいいかもしれませんが、それはただのオナニーです。

死刑廃止論を批判するなら、もう少し死刑法律社会に関する勉強をしてからにした方がいいと思います


追記

※参考:抑止効果という神話 http://d.hatena.ne.jp/good2nd/20070901/1188667970

記事への反応 -
  • たった一人というけれど、もしもそれが皆さんの身内であったら、それでも同じ事が言えますか? 坂本弁護士一家殺害の件でもそうでしたが(自由法曹団が事件後、一度死刑賛成に回った...

    • (1)疑問:「死刑制度」に意味はあるか? 罪を犯して罪を償うのは、当然のことです。では、犯罪者から命を奪えば、彼(ないしは彼女)は「罪を償った」ことになるのですか? それで「...

      • (あ、オレ元のコメント主じゃないよ) これ読んで「なるほどそうか!」って思う人いないよね。反感しか買わないと思うけど。 自分の正しさに絶対の自信があるんだろうけど。正し...

        • 同じく横だけど、ほとんどの人間が死刑問題ってどちらでもいいと思ってるので、面倒になって読まないことはあっても反感は持たないと思う。

      • 俺は死刑の是非ってどちらとも決められないんだけど 実際のところ凶悪犯がいたとして死刑にして終わりにするよりか 教育的効果を期待して凶悪犯にずっと飯を食わせていくほうがコス...

      • ですが、これまで死刑が廃止になった国で、凶悪犯罪が増大したというデータはないので(むしろその逆です)これは否定されます。 死刑反対派ってまだこんな事を言ってるのね http...

        • フィクションの児童ポルノ的な表現に宗教的文化的な反発が欧米にあるように「規制の少ない日本に性犯罪の件数は少ない」って言った所で、説得出来ないんだよね。 反発する相手をバ...

          • しかし、そういう面からしか反論できないのも惨めだな。 過剰なまでに放射能を怖がる人たちみたい。馬鹿な私を説得できないほうが悪いって。

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