2010-08-23

本当はわかっているくせに

今日、行きつけのお店で同じ店の常連さんに「何でリフレ派なんて支持するのかわからない」と言われました。

曰く、「リフレ派なんて、ナショナリストの巣窟じゃないか。ましてや、歴史修正主義者に選挙投票するなんて、本当にわからない。その辺、神奈川県投票した人に聞いてみたいので教えてほしい」というわけです。

別にリフレ派大好きということもないし、その議員後援会に入っていることもない私になんで聞くのかよくわからなかったのですが、相手もまだ若い方だし、あまり真剣に聞くもので、私も真面目に答えたものです。

「いまの不景気によって、たくさんの若年失業者が生まれている。そして経済が低迷からぬけだせないと、そうした若年失業者スキルが上がらず、低賃金労働者として格差固定化されてしまう。たしかにリフレ派にはナショナリストもいるが、端から見るほど一枚岩ではない。それに不景気を脱して雇用を確保することは現在右傾化を止めるために不可欠。社会民主主義意識の高い欧州では、景気の悪いときに左派金融緩和を求めることは社会の仕組みになっている」というような説明をしました。

一通り説明したはずですが、相手の方は納得しません。

「脱リフレ議連会長歴史修正主義者だ。歴史修正主義者の暴走を止められないなら、リフレ派も歴史修正主義容認だ。雇用の確保っていうが、結局は韓国中国に抜かされるぞっていう経済ナショナリズムであって綺麗事だ。やっぱりリフレ派をありがたがる気持ちがわからない。ことばは悪いが、カルトいいわけとしか思えない」と食い下がります。

私もどこかでおかしいなと思いながら、返答します。

現実リフレ派を見るとわかるが、リフレ論と歴史修正主義はまったく議論が違う。弱者救済のために再分配を実行するときは経済パイが大きい方が簡単だから、再分配のために経済成長を求めるのはきわめて安全な選択でもある。経済成長を求める富裕層の所有欲を利用して弱者保護できるシステム現実的だ。個々のリフレ派が他にどのような意見を持っていても、雇用の確保は弱者にありがたがられることに違いない」と説明しつつ、だんだん私がリフレ派の代弁者になっていくさまに、いささかアホらしさを感じました。

結局、アホらしいと思った私の方から、「あなたがリフレ派が歴史修正主義者の巣窟でないことに納得していなくとも、リフレ政策が重要であることに変わりがない。あなたがリフレ派に歴史修正主義者を見つけたとしても、そうでないリフレ派を見つけられないだけかもしれない。だから、リフレ派が右翼の巣窟とおもったら、松尾さんの本を読んでみたらいいと思う。あなたが50年後の十万人が今の一万人より大事だと思っても、他の人には今の一万人を助けることが大切かもしれないので、くれぐれもそれを踏みつけにしないように」と話を切り上げました。

相手の彼は、それでも「私を納得させられない程度の議論に、絶対的な価値があるとは言えない。松尾さんの本を読む気はないが、リフレ政策自体には賛成だ。ただ、リフレ派が「リフレ脱却国民会議」などといって国民国家ナショナリズムを利用しているのが嫌いだ。そう言わずぜひこのまま議論してほしい」とがんばっていました。もう充分彼の質問の意図が見えた後でしたので、私はそれ以上その話題には乗りませんでした。

こうなっては、「わからないと言う以上は、わかりようがない」

それが彼へのただひとつの答えだと思ったのです。

結局、彼の質問は「○○がわからないから教えてほしい」と言いながら、「○○をありがたがるなんて、気が知れない」と言いたいだけなのでしょう。

「教えてくれ」と言いながら、すでに「ナショナリズムに関わるものはどんな運動からも排除すべき」という答えは心の中に確固として存在しているのです。ですから、聞かれた方がいくら言葉を尽くして説明しても「なるほど!」という答えが返るはずがありません。

それは、「議論しよう」と持ちかけながら、その実は論争を楽しもうとする姿なのです。

相手が自身の価値観に揺らぎを見せれば、折伏した勝利者としての自らに満足し、相手が言いよどめば、相手に無知の知を知らしめた自らに満足し、相手が激すれば、なお冷静な論理を紡ぐ自らに満足し、相手が降りれば、ゆるぎなき鉄の価値観を持つ自らに満足するというわけです。テーゼアンチテーゼから昇華したなにかを得ようとする姿を借りながら、相手の答えが曲がらないかぎりは自らの答えをけして曲げる気がない、堂々巡り価値観の剣闘です。

そんなことを思いながら、「わからない。なぜ?」と聞く前に、本当に自分にその答えを聞く気があるのか、そこを自問自答したいものだとじっと手を見ました。

具体的に話題にした彼には申し訳ないのですが、今年に入ってそういう問答が何度も私の身に降りかかったもので、いい機会と記事にしました。

「いい左翼が、リフレ派になぜあんなに熱中するものか、わからない」というような、理性の皮を被ったリフレ派叩きの記事を見るにつけ、私は思います。

「本当はわかってるくせに。そんなことわかりたくもないと思ってるってこと」

  • http://anond.hatelabo.jp/20100823053807 1.今批判を受けている政治家はナショナリズムどころではなく明らかなレイシズムにいたっていること 2.レイシストで扇動家の政治家を支持すること...

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  • リフレ派もそうだし構造改革派もそうだが、経済を語る人に対する不信感って、大衆を個々でなくマスで捉えていることなんだよね これは経済学の宿命で、彼らが悪いわけではないんだ...

    • えーと、厨先生もおっしゃっているように、ことはもう経済学の範疇ではなくて切れば血が出るリアル・ポリティクスに移っているらしいですので

    • 「リフレ派は歴史修正主義」論争って何かに似てると思ったら アレだ。2年前の「トリアージはホロコースト」論争。 経済畑の人間とはてサって昔から相性悪いんだな。

    • Apemanは「こんな言説ドイツでは通用しない」とか言うけどさ。 http://d.hatena.ne.jp/tikani_nemuru_M/20091016/1255671464 :ピック toledさんはhokusyuに削除依頼をした人を捕まえて「ごみのようなメ...

      • 基地外くん降臨 休み時間は40分の模様www

      • それキレてんの? 昔、よくそういう奴と話してたけど、適当にフォローしてやれば別に実害はないよ。 悪意があるわけじゃないし、周りが言って直せるもんでもないしね。 鬱陶しがら...

      • あのなー・・・気づきを呼び起こすために、あえてきつい表現を取ってるんだろ。 ナチスに処分させるべきと言われたら、普通の人間は、自分はそこまで言われるような言動をしてしま...

        • よくわかっていらっしゃる。 在特会側もきっとあえてきつい表現をしてるんだろう。 末端のアホが真に受けてしまっただけだ。

        • toledはhokusyuに対して「ナチスに処分させるべき」と書いたそうだから、やっぱりhokusyuの逆ギレの問題なんだね。 あるいははてサの内ゲバか。そんなことはないでしょうが。

          • 違う違う。常野はトリアージの延長で福耳のことを「ごみのようなメンヘル。ナチスに処分させるべき」と書いたの。 そしてそれを突っ込まれると「クネクネでhokusyuのことを書いた」と...

      • キャフキャフしながらスーパーニートモードのキミキミ。 ひとりでごくろうなこったあ。

      • これってはてサ連中の最大級の暴言だよなー

        • gokinoとかのニートのアレって、仕事とか趣味とか、家族、恋人、友人にリソース割いてるの? これって最大級の皮肉だよなー http://anond.hatelabo.jp/20100824022736

        • http://anond.hatelabo.jp/20100824211159 他人に悪意をまき散らすことをカッコイイと勘違いして、単に飛び切り臭うクソをまき散らしてるだけ 頑張ってまき散らしてください

  • https://twitter.com/sura_taro/status/1101449325983354880 日本経済論15講 (ライブラリ経済学15講APPLIED編) 単行本 – 2019/1/1 脇田 成 (著) https://www.amazon.co.jp/gp/product/488384286X ”リフレ派や構造改革派によ...

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