言われてみれば簡単なことなのに、どうやってもその瞬間にはそれに気づかないことがある。
その時も、与作は、他の解決策が思いつかなかった。絶対に愛子を殺さなければいけないと思い込んでいた。
「ごめんな愛子。愛してなかったわけじゃないんだ。ただ、お前がどうしても子供を産みたいなんていうから。オレはお前がそんな女だったなんて思わなかった。オレが悪いんじゃない。わかってくれ」
与作は愛子の首を絞めるために用意した麻紐を、落ち着かないそぶりで何度も何度もひっぱり指に撒きつけたりしながら、愛子の部屋で愛子の帰りを待った。
夜も22時を回ったころ、ガタンッとドアの外で音がした。愛子が帰ってきたと思った与作は、そっとドアの陰に身を潜めた。愛子が部屋に入ってきたら、声を出す隙もあたえず首を絞めて殺すつもりだった。
ところが、いくら待ってもドアは開くそぶりを見せない。気のせいだったのだろうか。与作は再び部屋の中に戻って愛子の帰りを待つことにした。
長い長い時間が過ぎた。時計の音だけがカチコチと、いつにも増して大きく響く。与作の緊張はピークに達した。愛子は帰ってこない。もう限界だ。なんで愛子は帰ってこないんだ!
その時、急にドアノブが回された。与作はとっさに麻紐を隠した。愛子か? ドアはゆっくりと開かれていく。
ドアを開けたのはやはり愛子だった。だが様子が変だった。愛子は酒に酔っているようだった。髪は乱れ、服は汚れ、立っていることもままならない。こんな愛子を見たのは初めてだった。
「与作さんが部屋にいるのはわかっていたわ」
「そうか」
「与作さんが何の用で訪ねてきたかもわかっているわ」
「…」
長い沈黙が二人の間を通り過ぎる。
想定外の状況になって、かえって与作の頭は冴えていた。愛子を殺して何になる。殺した後はどうするつもりだったんだ。そんな必要はないじゃないか。オレは愛子を愛していた。今だってそうなんだ。これからの二人の生活を想像した。幸せな家庭、可愛い子供…。与作は、今まで自分の内臓を締め付けていたものがふいに解かれたような開放感を感じた。
「子供は二人で育てよう。オレが悪かった」
愛子の目が驚いたように見開かれた。次の瞬間に与作は愛子の笑顔を期待した。しかし、愛子の表情は変わらなかった。
「酷い…」
http://anond.hatelabo.jp/20091108230020 自分の創作過程をここに残す 最初にテーマとして、最近殺人事件多いよねーと思い、人を殺す理由みたいなものを考えた。 人間、追い詰められると思慮...