2009-09-14

これはフィクションです。

中学時代の話。うちのクラスに、ドラえもんに登場する「出来杉君」をある程度マイルドにしたような人がいた。成績は中の上で短距離走が異常に早く、帰宅部なのに県大会とかに出てたりして、性格や「穏健」を体現したような感じ。なので男女問わず彼を悪く言う人はいなかった。

それとは別に、担任もさじを投げるようなどうしようもない奴もいた。いわゆるDQNってやつか。出席率は3割以下。たまに来る日も、昼前に、明らかに暴走族とおぼしき輩がバイクで送迎してくる。舌打ちしながら授業を途中で「自主的に切り上げる」など日常茶飯事。

そんな二人が一度だけ激突した事があった。

年に一度行われる文化祭的なイベントにむけて、うちの学級は学校ジオラマを造っていた。二畳ほどの広さのもので、校舎の窓ガラスも一枚ずつプラスチックの板をはめ込む気合いの入れよう。途中経過を見た校長はその出来映えに感心し、文化祭イベント終了後は学校の来客用のエントランスホールに展示するとまで言い出したのだから級友達のテンションが上がらないはずがない。クラスのみんなが自主的に連日放課後居残って制作に勤しんでいた。

そこにDQNの登場である。

ジオラマの作業場所は余った机や椅子置き場になっている、今は使われていない教室なのだが、何故かDQN放課後そこにふらっと現れた。

教室に入るなり「おっしゃ!俺も手伝ってやるぜ!」とがなりたてるが、当然みんなは白け顔。そんな空気を読み取ったか、DQNはつかつかとジオラマに近づき、「お、殆ど出来てんじゃん!」と言うやいなや、「はいどーん!」と、あろうことかジオラマグラウンドの部分を思い切り踏みつけやがった。

ジオラマの土台は発泡スチロールなため、ジオラマの真ん中に巨大な足跡があっけなくできあがり、白い破片が周囲に飛び散った。あっけにとられる周囲を尻目にDQNは「よっしゃこれで完成www」とついでに東校舎を蹴っ飛ばした。

すすり泣く女子達。「何やってんだお前!」とDQNににじり寄る男子達。へらへらと笑うだけのDQN。そのうちの何人かが職員室へ事態を報告しに行こうとした時、教室の隅で作業中だった彼(穏健な方)が突然投げつけたパイプ椅子が、DQNの顔面に直撃した。折りたたまれた状態で縦回転しながら飛んできたので、かなりの衝撃だったように思う。

予想外の事態で後頭部をしたたかに床に打ち付けたDQNは、鼻と口からダラダラと血を流し(上あごに当たったのだろう)、DQN達特有の威嚇の雄叫びをあげた。しかし彼は意にも介さずDQNの頭をサッカーボールのように蹴り上げた。

「お前何してんだこら。」

彼はそう言いながら、今度はDQNの腹を蹴りつけた。

「なあおい!お前何してんだよ!なあ!」

次はDQNの顔面を思い切り踏みつけた。

まるで外国映画で、悪徳刑事が取調室で無実の被疑者をいたぶっているような光景だった。もしくは、命令をしくじった下っ端のチンピラを制裁するマフィアの姿にも見えた。生まれて初めて目撃する純然たる「暴行」に俺は背筋が冷たくなった。いつも威勢のいいDQNの顔には、血と涎と涙と恐怖しか残っていなかった。

職員室から担任が急行した数分後には既に終わっていた。半壊したジオラマの横で土下座をするようにうずくまり、背中にいくつもの足形をつけ(彼が蹴りつけた時についたものだ)、「うーっうーっうーっ」と、泣いてるのかうなっているのか判別しかねる声を上げ続けるDQN。散らばったジオラマ部品を黙々と拾い集める彼。

「何があった?」と尋ねる担任に、彼は無表情のまま答えた。「そいつに聞いてください」。

その日以後、DQN学校に現れなくなった。DQN暴行を加えた彼はとりあえず反省文を提出させられたようだが、教師側も(普段の彼とDQNの行状から)事情を察したようで、後からその件に触れる事はなかったようだった。そして我々も何事もなく卒業を迎える事になった。

およそ二十年弱が経過した。そんな彼をmixi発見した。結婚し、子供も居るらしい。俺は彼にメッセージを送って連絡を取り合い、あの「暴行事件」を懐かしんで見せると、彼は翌日少し長いメッセージを送り返してきた。あの日の自分の行いをとても後悔しているらしい。自分クラスになじむチャンスを奪ったのではないかと、今でも思い出す事があるそうだ。なので私は、DQNが16か17歳の時に無免許バイクを乗り回し、交通事故を起こして死んだ事は言わなかった。多分彼も知っていただろうが、これ以上は私が切り出すべき話ではないような気がしたからだ。少なくとも私にはあの事件は「武勇伝」ではあったが、彼自身にとっては、それは「忘れがたき若き日の過ち」だったのだろう。

なんとか修復・完成した校舎のジオラマは、ガラスケースに入れられて今でも母校のエントランスホールに飾られている。

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