2009-05-03

ピアノが僕らを引き裂いた話

http://anond.hatelabo.jp/20090501205227

先日、高校同窓会があったようだ。

密かに見ている当時のクラスメイトmixiで知った。

イタリアにいる僕は参加できないし、おそらく日本にいたとしても参加していないだろう。

今の地位を築くために失ってきたもの、それが僕の少年時代だった。


両親が音楽家だったせいもあり、当然のようにクラシックかかる家で、幼稚園に入る頃にはピアノを習わされた。

幼稚園の頃は、音が出るだけで楽しかった。

うまく弾ければ先生がほめてくれたし、発表会でステージにあがるのは、「大人」になった気分で、

ものすごく緊張したけど、そこで弾くピアノは最高に気持ちが良かった。

真っ暗なステージ

スポットライトを浴びて、ステージ中央のピアノへ向かう。

いつもよりもいいピアノで、当時の僕でも分かるくらい音が違った。

僕の原点はたぶん幼稚園時代の発表会だ。

あの時の快感が忘れられなくて、今でもピアノを弾いている。


ただ、小学校に入ってからはそうもいかなかった。

友達が遊んでいる中、僕はひたすらピアノの練習をしていた。

ファミコンなんてしたことがない。

ドラゴンクエスト、というのが流行っているというのは知っていた。

親に今度の発表会で金賞を取ったらドラクエ3を買ってとおねだりしたら、思いっきりぶたれたのを覚えている。

テレビゲームで遊んでるヒマがあったら、ピアノを弾きなさい。

頭の中が真っ白になった。

でも、ピアノを弾いて見返すしかないと、ひたすら練習に励んだ。

ピアノピアノピアノ

クラスメイトの話題について行けず、ピアノをやっていると言ったら、「男なのにピアノやってるの?」と思い切り笑われた。

それ以来、僕は人にピアノのことを話すのはやめた。

たぶん、僕はピアノを最も愛しながら、ピアノを最も憎んでいた。


今でも忘れられないのが、高校3年の時の文化祭だ。

出し物の都合でピアノを弾ける人が必要になった。

「誰かピアノを弾いてくれませんか?」

文化祭実行委員が立候補をを募る中、僕は手を挙げようか挙げまいか迷っていた。

当然のように、僕はピアノをやっていることを誰にも話していなかった。

相変わらずゲームのひとつもせずに、ピアノ一色の生活だった。

マンガドラマゲーム、みんなの会話に何一つついて行けず、かといって勉強運動が出来るわけでもなく、

いてもいなくてもわからないような存在

ピアノがなければ、僕は何も出来ない男だった。


ピアノさえなければ。

ずっとそう恨んできたが、その時、初めてピアノが役に立つと思った。

最後の文化祭

言い方は悪いが、普段の練習からすれば、たいした曲ではないだろう。

それでも僕がみんなの役に立てる唯一の機会。

ピアノが僕をクラスメイトから遠ざけてきたけど、今、初めてピアノが僕とクラスメイトを結びつけようとしている。

手を挙げかけた瞬間、小さな声がした。

もう名前も覚えていない、僕と同じように地味な女子だった。

意外な立候補に周囲がざわめいた。

「○○ってピアノやってたっけ?」

「あいつにできるの?」

それでも彼女は、震える手を下げようとしなかった。

僕の居場所は、なかった。


文化祭は大成功だった。

受験も控えた文化祭で、はじめはあまり乗る気ではなかった人も多かったが、ピアノをろくに弾いたことのない彼女のために、クラスが初めて一丸となった。

元々器用ではない彼女が、いきなりピアノを初めて、うまく弾けるわけがない。

練習中に彼女があまりに弾けなくて「ごめんなさい」と泣き出したこともある。

それでも演奏が出来るパートのみにうまく再編成して、文化祭を成功させた。

僕がピアノを弾かないことで、クラスはまとまったのだ。


その後、僕はとあるコンクールをきっかけに、欧州の楽団からスカウトを受け、

受かっていた大学を蹴って留学することになった。

当然、僕を見送ってくれる人はいなかった。

パソコンを閉じた後、

密かに練習していたものの、

結局一度もみんなの前で弾くことのなかった高校の校歌を、

一人、奏でた。

:::追記:::

当然だが、創作だからね。

題名もつけてみた。

元増田(とそのクラスメイト)があんまりにも一方的な怒りを感じていたので、勝手妄想して書いた。

だから、元増田の怒りを踏みにじるつもりはあるw

ピアニスト君は、本当はみんなと一緒にやりたかったかもしれないよ?ってのを、

ラストの練習はしたけど、一度もひかなかった校歌のくだりに託してみたw

当然ピアニスト君の事情はわからないけど、

彼への肯定的な想像力があってもいいんじゃないかと思う。

したことにせよ、しなかったことにせよ、相手の決断を尊重できる人でありたいもんだね。

記事への反応 -
  • 高校3年の文化祭で、出し物の都合でピアノ奏者が必要に。 重要な役割なのでプレッシャーが高く、また練習のために放課後長時間拘束されるのを嫌がって誰もやりたがらなかったが、...

    • 先日、高校の同窓会があったようだ。 密かに見ている当時のクラスメイトのmixiで知った。 今イタリアにいる僕は参加できないし、おそらく日本にいたとしても参加していないだろう。 ...

    • その場の空気がどうだったかなんていうのはその場にいた人間にしかわからないことだし、あなたの感じるもやもやもわかる。 でもまあ、あなたも書いているように また練習のために...

      • あるある…… 「結婚式でピアノ弾いて!」で謝礼もないわ何も食べられないわ、とか日常だからね 無償奉仕を当然のものとして強要し、受け入れられないと激怒 気が狂ってる じゃあ...

    • その彼に怒るのは筋違いだと思うなあ。コンクールに出るくらいのピアノやってる子ってもう生活すべてがピアノといっても過言じゃないくらいなんじゃないのかな。私は身近に音大付...

    • まあ否定ではなく無視だよな。 ピアノが弾けるばっかりになにかあればピアノを任され、クラスメートの好き勝手な要望を聞き続けた小中学時代。 高校生になりようやく解放。 そんな...

    • 1.高校3年の文化祭で、出し物の都合でピアノ奏者が必要に。 どんなんだろ?合唱?ミュージカル?演劇?オペラ? 2.重要な役割なのでプレッシャーが高く、また練習のた...

    • これ面白い話。当事者たちが困惑したり腹立てたりすればするほどハタからは面白い。

      • 何が面白いかって、任意ですべき立候補をしなかったことに腹を立てていること。

    • ま、価値観の違いでしょうな。 彼にとって、たかだか文化祭の出し物程度で貴重な自分の練習の時間を削って 練習のために放課後長時間拘束される なんて、割に合わなかっただけの...

    • 怒るのは筋違いでしょ。 プロのピアニストを目指して、卒業後にコンクールに出たんだとしたら、高校三年の時期なんてレッスン漬けですよ。 どこの高校か知らないけど、地方の高校だ...

    • http://anond.hatelabo.jp/20090501205227 他人の成功を歯を食いしばってキーキー言っているおばちゃんだな

    • 激怒って、子供の狭い世界観を未だに持ち続けてる人いるんだ・・・

    • 各クラスからピアノ奏者1名の供出を求めるということがそもそもおかしいのだと言わざるを得ない。

    • そんなもん知るかよw どうして、偶然一緒になった奴らと仲良くしなきゃいけないんだよ。 どうしようとそいつの自由だよ。 それに、文化祭は成功したんでしょ。ならいいじゃんw

    • とりあえず、増田があまりに叩かれすぎだ。 誰か援護してやんなさい。 少なくともドラマの主人公として好まれるのは 増田の方だと思うのだが 何故、これほど共感されないのか? ……...

      • 少なくともドラマの主人公として好まれるのは 増田の方だと思うのだが 何故、これほど共感されないのか? はてな界隈にはプロになったピアノ弾きと似たような体験をしている人...

      • “気分”は分かるが、“共感”は出来んなぁ。 高校時代の「青春の一ページ」は本物だったと思うよ。 ピアノ未経験の女子生徒の努力も、それをバックアップしてクラス全員が一丸にな...

    • 「荒れまくった」の状況が想像できないんだが……。 そのピアニストの悪口大会になったってことなの? 同窓生が海外赴任するぐらいの年齢なんだから社会人になってある程度たって...

    • 高校の同窓会が荒れまくった時の話 http://anond.hatelabo.jp/20090501205227 せっかく青春の1ページとして残ったのに何が不満なのだろうか。 仮にその彼がピアノ担当になったときのことを想...

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