2008-12-18

話すと長くなる、不可解(かどうかは知らんが)ルールの説明

http://anond.hatelabo.jp/20081217003010

より

まあしかし、確かに浅田も重大なミスをしたとはいえ、女子史上初、伊藤みどりも成し遂げなかった3A×2を成し遂げた業績の割には点が伸びなかったのは事実である。表現力もいいというなら、一般視聴者にとっては更にわけがわからなくなることだろう。一体何がダメなのか?そこは2年くらい前から変わってきた今のフィギュア界の不可解なルール関係しているのだが話すと長くなるので割愛する(キムヨナもジュニア時代からほとんどやっていることは変わりがないのに急に浅田に勝てるほどに点が伸びだしたのもルール改正と同時だ)。

 こと、今回の大会について「浅田の点が伸びなかった」理由は明確で、それは「一番点数の取れるジャンプで転倒したから」であり、その意味ではちょっと元増田の説明は当を得ていない。

 そもそも、今回見た目としてはキムは「2回ミス」していて、浅田は「1回ミス」しているのだが、浅田が転倒したのはコンビネーションジャンプで、キムは単独である。しかも、点数の高い「3回転+3回転」のコンビネーションの「1つ目でミス」であり、結果として2つ目は「跳べてもいない」からミスに見えなかっただけの話。跳ばなければ0点なのだから、このミスは実質「2回ジャンプミスしてる」に等しいのである。

 実質ミスの数が同じで、技術点だけで3点差をつけてSPPCSの不利を打ち棄てているのだから、技術的な意味でいうならば、十分に「完勝」だろう。

 ただ、その上で、増田の言うところの「不可解なルール」、もうちょっと言えば「浅田がキムに対して不利になるルール」みたいなのは存在するので、そこについて「話すと長くなるので割愛する」なんて言われると気にしてしまう人も多いことだろうし、軽く書いておく。07-08シーズンの改定を含む現在フィギュアスケートの採点方式では、以下の辺りがキムに有利に働いた点として挙げられよう。

要素に対する加点(GOE)の積極化

 フィギュアスケート技術点は、技術審判という人たちがまず要素(技)の種類を判定し、それに対して7人のジャッジが要素に対する加点を定義する。技術点はあらかじめルールで何点と決まっているけど(これを「基礎点」という)、各技がどの程度「やっとこ出来た程度」か「非常に洗練されているか」によって判定は変わってくるよね、という話で、これはまぁ筋が通っている。

 ただ、旧採点の減点方式に慣れていた当初のジャッジは、なかなかプラスを付けることに消極的だったので「それだと巧い選手が気の毒だし、GOEの意味無いよね」という話でGOEのプラスは積極化しましょうね、みたいなことを決めたりしてた、っぽい。この辺り記憶曖昧だが。

 例えば、トリノでの荒川静香は、かの有名なイナバウアーの後に3連続ジャンプを入れているが、この際のGOEはプラス0.57で、半分近くのジャッジからは「イナバウアーから入った美しさ」に対して加点を貰っていない(PCSは伸びたかも、であるが)。現在はこの辺りをかなり改善している、とも言えるし、実際トリノ荒川のGOE加点の合計は5.02であるが、現在ルールならばもう3点か4点は加点が伸びたであろう。

 それはそれでいいのだけれど、一つ問題があった。

 それは、難しい要素に対して基礎点を上げないままに、GOEだけ上げましょう、となったこと。

 当たり前だけれど、難しい技のほうが「完璧に決める」とか「洗練された技にする」ことが難しい。それでGOEを積極的に上げたらどうなるかというと、要するに簡単なジャンプと難しいジャンプの点差が明らかに詰まる結果となってしまったんである。

 無論その背景には、新採点で少しでも点数上げようと難しいジャンプスピンに挑んで体力の消耗度が上がったことで、大会で転倒するケースが激増したから、少しでも美しい演技を増やしたいという事情もあるのだろうけど、既に難しい技に取り組んでる選手(浅田など)には明確な不利になった、と。

 今シーズンはその反省もあってか、3A以上のジャンプ基礎点が向上された。しかし、これがまた厄介で、「減点時のマイナス幅を大きくする」という改定とセットになっているのである。しかも「加算時のプラス幅」は広げずに。これではやはり「大技不利」の傾向は変わらないように見える。

アクセルジャンプの得点の「割の合わなさ」

 3Aというのは男子と女子で極端に成功率の違うジャンプである。

 男子だと一流半くらいでも、かなり多くは3Aを普通に入れられるので(まぁ中には4+3連続ジャンプ出来るのに3A苦手、って選手もいるが)、余り基礎点を上げても仕方ないのだけれど、女子は、たまたま現在浅田と中野が並び立つものの、3A跳べる選手などほぼ数年に1度レベルである。しかし、基礎点の点数は男女共通であり、こと3Aについてはそれが「男子に合わせて」設定されていて、要するに女子の3Aは難度に対し割に合っていない。或いは、オリンピックで浅田は3Aを2回は入れないのではないかな、とは思う。

 一方で、ある程度昨今のルールで「優遇」されている要素として、2回転アクセル(2A)がある。

 このジャンプは女子のシニアトップレベルならかなり高い成功率で、というか滅多にミスしない難度のジャンプである。ところが、先ほど「難しい要素に対して基礎点を上げないままに、GOEだけ上げた」という話をしたが、このジャンプに関してはルール改正でむしろ基礎点を上げてきた(3.3→3.5)のである。恐らくはジュニア辺りでの難度を考慮したと思われるが。

 さて、他のジャンプと比較すると、2回転でアクセルの次に難度が高いルッツは1.9点、一方3回転で最も基礎的なトゥループは4.0点であり、そこからサルコウ→ループフリップ→ルッツと0.5刻みで点数が上がる。言わば、3回転に準じるジャンプとして2Aは扱われていると言えるだろう。

 ところが、2回転である故に、ジャンプ数の回数制限から2回転は外されているのである。

 プログラムバランスを取るため、3回転以上のジャンプについては、回数に以下のような厳しい制限が適用される。

 ところが、2AはGOEによっては3回転に匹敵する点数を容易に出せるジャンプであるのに、これらの制限を受けず、「3回までならば、どういう組み合わせで跳んでも自由」ということになっているのである。

 キムは、この2Aを3回取り入れてGOEを稼ぐ戦術を取っており、自身が苦手なループを回避することが多い。勿論、点取りゲームとしてそれは正解ではあるのだけれど、どうもセコい感は否めないか。

 まとめると、シニアジュニア男子と女子みたいな括り差について敢えて考慮せずにジャンプの基礎点を完全に同じものとするという採点方式の仕組みと実態にミスマッチが生じているのが現状で、浅田のような選手には、それが不利に働いている印象。

エッジルール採用

 さて、その一方で、「減点」の方のルール改正が、このエッジルールである。

 ルッツジャンプ(Lz)とフリップジャンプ(F)という、素人には激しく区別の難しい(俺も等速では区別つかん)ジャンプがあるが、この両者を離氷時のエッジで区別して現在は採点している。その際、特にフリップが得意な選手はルッツもフリップっぽいエッジで跳ぶケースが多く、その逆も多い。こういう場合に、クセのあるジャンプはGOEで減点することは以前から行われていたが、従来はジャッジが「足し算と引き算」して減点がされていた。つまり、「洗練されているから+1、でもエッジがダメだから-1」みたいな判定になっていたのである。

 これを「無条件でマイナスにしようね」と技術審判が認定することにしたのが、俗に言う「エッジルール」で、昨シーズンから取り入れられている。

 このルールにおいて、例えばルッツが「フリップっぽくなる(フルッツ)」というクセのある浅田真央は06-07シーズンにはフリー演技終盤に3Lzからの3連続という高難度なジャンプを入れてたのだが、これを翌シーズンのルールで行うと、今までは「演技終盤にこの技が出来る」というプラス要素でエッジ減点を相殺していたのが、相殺が利かずエッジ減点のマイナスだけを組み込まれてしまうようになった、ということになる。

 結果として、浅田は3Lzをショートフリーで各1回跳ぶ際に、必ず減点を1点以上付けられる計算になり、これだけでほぼ3点から4点近くのダウンを余儀なくされる。逆にキムはこの両方においてクセが少なく(無い訳ではない。というかほとんどルッツとフリップの中間的な部分でバランス取ってるのがキムのクセで、採点に影響しづらい)、上述の加点の恩恵だけに預かれるので、このルールで両者の差は5点以上、つまり3回転ジャンプ1つ分は詰まったように思われる。

 ただ、これはまぁクセがある方が悪い訳で、浅田側も昨季は敢えて放置していたものの、今季から修正を行い、ショートでは加点が貰えるレベルまで改善してきた。フリーではまだ3Lz自体入れてないので、その分まだ完全に差を埋めきってはいないが。

 一方で、ルッツとフリップは表裏の関係であり、片方を矯正するのはもう片方の完成度を落とすリスクがある。例えば安藤は浅田と逆にフリップが「ルッツっぽくなる(リップ)」クセを昨年に矯正開始したが、結果としてルッツのフォームが不安定になり、苦しいシーズンを送ることとなった。浅田も先のGPFではフリップで転倒したが、果たして今後両方のバランスを如何に取ってミスを減らせるかがカギとなるだろう。

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