2008-12-01

小学生のころ同級だった男の子と会った

冒頭にて注記を。

以前書いたhttp://anond.hatelabo.jp/20080913153317の続きです。



小学生のころ同級だった男の子と会った。

細かいいきさつはもう思い切って省いてしまうけれど、とにかく、ふたりで会うことになった。

地元では有名な企業御曹司で、お父さんの会社を継ぐために東京大学に行って、いろいろ勉強したと言っていた。

仕事が終わるのを待って、イタリア料理のお店でコースを食べた。

クラスメイトの話とか、地元最近こんなふうに変わったよとか、そんな話をした。

声が低くなっていた。卒業してからもう15年ぐらい経つんだから、変わってて当たり前だ。

喉仏が動くのをわたしがじっと見ていたら「何?」と照れたように笑った。

そいつはスーツを着ていたけど、少し長めのまつ毛、見るからに育ちのよさそうなきれいな指先、当時の面影が確かに残っていて、目の前にいるのが確かにわたしの記憶の中のそいつと一致する人物なのだと思うとうれしかった。

忙しいはずなのに、わたしとこうして話をする時間を割いてくれたことがうれしかった。

でもやっぱり変な感じ。

わたしたちは子どものころの記憶しか共有していないはずなのに、今こうしてふたりでイタリアンを食べて、ワインなんて飲んじゃって、いっぱしの大人の男と女みたいな会話を交わしている。まるでデートみたい。変なの。

そいつが笑顔を見せるたびに、胸が苦しくなるのがわかった。

でもわたしは笑うしかないような気がして、笑ってた。

話を聞いていて、そいつがお父さんの会社を継ぐことを目標にして今までまっすぐに、ひたむきに生きてきたのがわかった。

今日にいたるまで挫折ばっかりで決してまっすぐじゃなかったわたしは、なんとなく、恥ずかしいような、悔しいような、変な気持ちになった。でもわたしは今の自分が好きだし、今の生活を気に入っている。

意味不明の悔しさを紛らわせようとして、わたしは自分の現状をことさらに楽しげに話して聞かせた。

そいつはそつなく相槌を打っていた。

そう、こういう雑談にそつなく相槌を打てるぐらいには、そいつはちゃんと大人になっていた。

それが少しさびしくて、でも当たり前だよなあ、と思って、わたしは黙り込んでしまった。

わたしが黙ったので、そいつも黙った。

特に気まずいわけでもない、相手(わたし)が会話モードでなくなったので、まあ俺も黙っとくか、みたいな軽い沈黙だった。

ああ、そうだ、これだ。

と、わたしは少し気を取り直して思い出した。

そいつと話していて感じていた居心地の良さ、波長の合う感じが、これだった。

お互いにしゃべりたいときにしゃべってればいいし、黙りたくなったら黙ってたらいい。

それで気まずくならないという関係が貴重だった。

「こういう空気が懐かしくてありがたい」

という意味のことをわたしは言った。

わたしと同じように、そいつが当時の記憶を大切に思っているのかどうかは知らないが、とにかく伝えたくてわたしは言った。

そいつは「俺もしゃべりやすいと思ってた」みたいなことを返してきた。

彼女はいない、と言っていた。

でも「受け答えの仕方に壁がある」と思った。

今そいつには、仕事の上で守るべきものがきっとたくさんあって、わたしが距離を詰めすぎることがないように間合いを取りながら話をしてるのかな、もしそうなら、仕方ないな、と思った。

わたしは別に何か期待してここに来たわけじゃないし、それはきっと向こうも同じだろう。きっと。

帰り際、駅まで送ってくれるときに手をつないだ。

「車が危ないからこっち来い」みたいなことを言われて、くいっと手を引っ張られた。

あまりに自然なしぐさで、車が危ないときには誰でもそうするのが一般的なのかと錯覚するほどだった。

他の女の人にもしてるから慣れてるんだ、と一瞬思って、自分だって今まで他に付き合ってた男の人ぐらいいたくせに、なんだか悲しい気持ちになってしまった。

なんとなく手を離すタイミングを見失ってしまって、結局そのまま駅まで行った。

何度かそいつの真意を確かめたくて顔を見上げたけど、そいつはつーんと前を向いたまま、わたしの顔を見てくれなかった。

渡したままになっていたサイン帳のことは聞けなかった。

忘れてられていたらいやだし、「めんどくさかったから」とか言われたらそれはそれでなんか空しい。

これまた当たり前なんだけど、そいつは普通の大人の男になっていて、わたしも普通の大人の女になっている。

それはなんだか、ちょっと残念なことのように思う。もったいないことのように思う。

うまく言えないんだけど。

当時は普通じゃなかったのかって、それこそ普通小学生だったんだろうけどさ。

イタリアンに行ったり、手をつないだり、そんなことを重ねるうちに、なんかピュアじゃなくなっていくような気がする。

次に会う機会があるのかどうかわからないけれど、どうすればいいのかな。

とりあえずまだ三日にいっぺんのペースで夢は見る。

記事への反応 -
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