2008-11-07

最高裁も出たことだし、「痴漢冤罪」の分類を考えてみた。

【要旨】「痴漢冤罪」の概念を分類・整理することにより、何が問題なのか、何を改善すればよいのか、ということを考える手がかりとする。とりわけ問題となるのは「犯人誤認型」であり、この類型に着目することにより痴漢冤罪がやはり個人レベルのみで対処することが適当な問題ではないことが明らかとなる。冤罪防止のためには、鉄道会社の対応も不可欠であり、防止対策のひとつとして車両監視カメラ設置の可能性を検討する。

【誤字の修正およびトラバ読んでの加筆もあります】  

 最高裁で、沖田痴漢冤罪損害賠償訴訟判決が出た。原審破棄差し戻しだそうだ。破棄の理由は、立証に関するものであったのだが、最高裁は近時の空気を読んで判決を下したように思われる。

 最高裁についてはこれらを;

 http://www.asahi.com/national/update/1107/TKY200811070389.html

 http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081108k0000m040126000c.html

 http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081107/trl0811072059007-n1.htm

 ところで、本件とは関係ないが、通常「痴漢冤罪」と呼ばれているもののなかにいくつか性質の異なるものが混在しているように思える。たとえば、

http://anond.hatelabo.jp/20081017211039

http://anond.hatelabo.jp/20081017144743

およびトラバでは痴漢冤罪問題について真摯な議論がなされているが、議論を読んで私がやや気になるのは、「痴漢冤罪」といったときにそれぞれの論者ごとでイメージしているシチュエーションが異なるように思えること。

 なので、いったん「痴漢冤罪」とされるものの分類・整理してみるとよいのではないか。

 以下でする整理により、何が問題なのか、何が悪いのか、どこを改善すればよいのか、ということを考える手がかりとしたい。さしあたり考えてみたのは

次の3ケース。

  1. 虚偽告訴女性痴漢事実がないにもかかわらず虚偽の告訴をするケース)
    • まあいわば、「ワルイ冤罪」。
    • 実際にあってほしくはないが、大阪の甲南大生が計画したでっち上げ事件はこのケース。悪質なものであるが、冤罪構造としては、悪いやつによる悪いこと、という単純なものであり、(3)とは異なる。
  2. 具体的接触型男性女性に触れている点は間違いないが、それを強制わいせつあるいは迷惑防止条例違反解釈できるかという点が問題となるケース)
    • まあいわば、「エロ冤罪
    • まず、具体例を不等号で挙げよう。罪が重い方から降順。
    • 下着の中に手を入れる > 下着の上から触る > スカートの上から手のひらで触る > スカートの上から手の甲で触れる > 胸に手のひらが当たる > 胸に手の甲が当たる> からだが密着する > 胸に肘が当たる、等々
    • 世の中の変化とともに厳しく捕らえられるようになるだろう事例。上の列挙は満員電車を念頭に置いたが帰宅途中でも似たような問題がある。
    • たとえば、酔客が隣に座った女性に(1)抱きつく→×、(2)太ももを触る→×、では、(3)居眠りをして寄りかかる→これは今後どうなる? 等々の問題。
  3. 犯人誤認型痴漢をした主体を別の人と間違えて告訴するケース)
    • まあこれこそ、「コワイ冤罪
    • これは、「痴漢されたことは事実」「痴漢してないこともまた事実」であり、両者の主張はともに正しいので、問題は余計に複雑となる。

時間シチュエーションから、よく問題となるものとして、次のケースがあるだろう;

  • 満員電車(とくに通勤中の)
  • 酔客の粗相・劣情の発露

 以上の分類をした上で、それぞれについて考えてみると。

 (1)虚偽告訴型は、実際に痴漢を楽しんでいるだろう一部の男性と同程度に、怒りを覚える。この類型では、実際に女性との接触がなかった場合にも事件化の危険はあるが、女性側からの何らかのアプローチがあると思われるので、男性側としても、注意することは可能かと思う。もちろん、痴漢行為不存在の証明=悪魔の証明から逃れられないという危険性はゼロを大きく上回る。

 (2)具体的接触型。この類型については、世の中の眼が厳しくなっていること(痴漢告発数の増加や女性専用車両の導入のほか、企業内でのセクハラへの対処、等々)は間違いないのだから、このことを行き過ぎだと思おうが思うまいが、受け入れ、ある種の諦念を持って自衛するしかないなと思う。ただし、これについては、自分の行動を規律することにより、かなりの程度危険性を回避できるだろう。酔客ケースに関していえば、酔ったうえでのことでした、では済まされない時代なのだから。

 (3)犯人誤認型。とくに男性が恐怖を覚えているのは、満員電車中での犯人誤認型であろう。これは、電車内においても、事件化した後においても、防御のしようがない。しようがない。コワイ。この点で一番問題であるように思う(虚偽告訴型もこの点では同じなのだが)。いくら注意しすぎても、十分に安全になることはないのである。

 ただし、この犯人誤認型の場合、「痴漢されたことは事実」「痴漢してないこともまた事実」→犯人は別の人間。両者はともに正しいことを述べているので、訴訟になった場合、きっと両者とも譲歩はないだろう。もちろん、女性に対して、誤認するな、ということは可能であろうが、問題は個人レベルで解決できることではなく、満員通勤電車という状況である以上必然的に起こる問題と考えた方がいいだろう。

 こうやって場合分けしてみると、痴漢冤罪」問題において、もっとも本質的なのは、(3)犯人誤認型ではないか。そうすると、疑問に思うのは、この痴漢えん罪問題についてなぜ鉄道会社が知らんぷりできるのか、ということだ。女性専用車両というものがたしかにあるが、これは中途半端免罪符だろう。

 この犯人誤認ケースが、痴漢冤罪問題に対して向けられる男性不安の中心にある。

 対策にはどういうものがあるか。

 この防止のためには、すでにいろんなところで主張されていると思うが、

電車内の監視カメラを、半分の車両につけるだけで、十分に効果が出ると思うがどうだろうか。この場合とにかく両手を挙げているのがカメラに写っていれば助かるのだから。

(追記:車両内に監視カメラを設置する場合、場所が問題となる。わたしが問題としているのは、

 犯行の証拠をとらえること、ではなく、犯行の存在しないことの証拠をどうするか、

 ということなのだから、車両の上側に設置して、両手を挙げていれば助かる、というものを考えています。もちろん、カメラの性能や死角となる場合の問題、あるいは背の高低で不利になる場合もあるかもしれませんので、具体的には詰めるところがたくさんあります。

 ただ、ここで問題としているのは、まさに「痴漢冤罪がおこるということの根本に何があるか」という問題意識の共有ということです。監視カメラ設置にかかる種々の問題は、その次に段階に位置する重要な問題だと考えています。)

  • もういいよね。 監視カメラつけようよ。 何で今までつけてないのかな? 皆そんなに電車内で見られたくないことしてんのかな? そうすれば痴漢だけじゃなく満員電車内でのスリとかも...

  • 昨年11月に最高裁で出された沖田訴訟の判決が出たときに次のように書いた。 →http://anond.hatelabo.jp/20081107215842  犯人誤認型。とくに男性が恐怖を覚えているのは、満員電車中での犯人...

  • 痴漢冤罪については、昨年11月に最高裁で出された沖田訴訟の判決が出たときに、冤罪となる類型を3つに分類した上で、次のように書いた。 →http://anond.hatelabo.jp/20081107215842  犯人誤認...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん