おかんとケンカした。にーちゃんのことで。
にーちゃんは10歳の夏に大きな病気をした。でも奇跡的に助かった。当時の主治医には「完治しました」といわれた。
ただ、後遺症なのかなんなのかよく分からないんだけど、退院後も頭が痛くなったり熱が出たりしてた。
1年ぐらい薬を飲んでたけどよくならなくて、最後に病院に行ったときは「自律神経失調症」っていわれた。
中学はあんまり通えなくて、高校も通信制に入ったけど結局ドロップアウト。
その後はふらふらしたり、ひきこもってひたすらテレビを観たりしてる。
部屋はものすごい汚部屋。昼夜逆転。それでたまに熱を出したり、頭が痛くなったりしてる。
そんな生活が続いて、気がつけばにーちゃんは30歳。
ここまではよくある話かもしれん。そしてこの後の話もよくある話かもしれん。
おかんは、にーちゃんが病気になったのも、その後ちっともよくならないのも、
それもこれもみんな「先祖の供養をきちんとしなかったから」「住んでいる場所の方角が悪いから」とかそういう方向に走った。
ま、ただ、そっち方面一直線じゃなかったのは救いだな。
1年に一回くらい突然思い立ったかのように「死んだじーさんが」「方角が」「前世が」みたいなことを口走ったりする。
そんなことが20年も続いてる。
今日、おかんとケンカした。
1年に一回の変なことを口走る時期がきたんだ。ずっと聞き流してたのに、なんか言っちゃったよ。
いやいや、先祖とか方角とかと、にーちゃんの病気は関係あったのかよ。
あったとしても、終わったことを悔いるんじゃなくてにーちゃんがこれからどう生きてくかを考えてやれよ。
この20年、何してたんだよ。
2時間くらい話したけど、おかんはブチ切れて部屋を出てった。お前に何が分かる。
お前には迷惑をかけないから。そういって出てった。
おかんが出てった当初は頭に血がのぼってて、「分かってねーのはそっちだろ、現実を見ろよ」とか思ってたけどさ。
冷静になればなるほど、おいら何やってんだろって思う。分かってねーのはおいらだな。
おかんは親なんだよ。親の愛は盲目的なんだよ。
にーちゃんの具合の悪い様子を見て、なんとかしてやりたくて、代わってやりたくて、でもできない。
見てるだけ。親にとってはいちばん辛いよな。
それについて自分なりに納得できる理由が「先祖のうんたらかんたら」なんだよな。
思えばおかんがそんなことを口走るのはいつだって夏だ。20年前、にーちゃんが倒れたのも夏だった。
おいらは息子なんだから、おかんの世界に付き合ってやればよかった。ごめんおかん。
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