次男の姿が見えなかったので、これが夢だということはすぐに分かった。
私は背広姿のまま、長男と手をつないで立っていた。つい今しがたまで騒がしかった玄関前、長男はいつも通りの笑顔で夜空を見上げていた。星の見えない都会の空、ただ細い月だけが西に傾いていた。
「そろそろ、お家、入ろうか?」
二人で引き返した部屋の中、妻が一人、目を閉じていた。
「おかーふん、ねんねー」
四歳にしては舌足らずな長男がとてとてと妻に近付き、横たわったその胸にとびついた。しかし妻は安らかな面持ちで身動きひとつしない。
「おーきーてー。おきてするー」
甘えたような仕草で妻の肩口に顔を押し付けながら、長男は何度もその言葉を繰り返した。それを見下ろす私の鼻の奥で、お香の青い煙がだんだんと湿りを帯びてゆく……。
夢はそこで、唐突に覚めた。
ぼんやりとした頭に、少しにじんだ風景が入り込んでくる。いつもの見慣れた寝室、小さな次男の、鼻が詰まったような寝息が聞こえてくる。
私のすぐ横では、妻が苦悩を眉に浮かべて眠っていた。見れば、派手な寝相で私たちの足元に転がったらしい長男の、右のかかとが妻のお腹に乗っている。
重かろうと思いかかとを退けると、妻の眉が少し和らいだ……のだが、長男のかかとはすぐにまた妻のお腹に戻ってきた。
「んぅぐう」
妻の鈍いうめき声、眉根にまたシワが寄る。