番外その3
秋葉原の事件や違憲判決など、書きたいことはいっぱいあるんですが、書きためていたものなのでまずはこれから公開しま
す。
ようやく気が向いたので書きます。問題意識は変わっていません。
以前に指摘したとおり、この問題は数多くの論点を含みます。なので超長文です。
出来るだけわかりやすく書いたつもりですが、わかりにくかったらごめんなさい。
まずは我が国の法規制についておさらいした後に、具体的なケースについて考えていきましょう。
刑法上、性行為が犯罪になる場合として、強姦罪が定められています(177条)。
(強姦)
第177条 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満
の女子を姦淫した者も、同様とする。
前段は一般的なレイプです。これに対して後段は「法定強姦」と呼ばれます。
暴行又は脅迫がなくとも、また同意があったとしても、法がその性行為を強姦とみなしているのです。
これは、少女の性的自由を父権的に保護する目的に出たものと解されます。
つまり年端も行かぬ少女は知慮浅薄であって、同意があったとしてもその同意が真意の元になされているのかは疑わしい。
これを放置すれば性的搾取の温床にもなりかねない。このように、少女を特に保護するための規定なのです。
しかし、ごらんの通り我が国では法定強姦年齢は13歳未満です。
13歳(=中学一年生ですよ!)になったからといって急に成熟するとは考えにくいですよね。
成人するまで、もう数年分の保護が必要と考えられます。
そこで、条例による処罰がなされているわけです。
少女への性行為を処罰する条例は、たいてい都道府県のレベルで「青少年保護育成条例」の中で制定されています(淫行条
例と呼ばれます)。
条例での処罰には犯罪地の条例が適用されることになりますので、実際にセクースした土地の条例の適用を受けます。
各地方公共団体が独自に定めるものなのでそれぞれ違ってしかるべきですが、
どこかが甘いとそこに流入してしまうので、足並みを揃えてだいたい同じように定められています。
よく言われることですが、全国で長野県だけはこの条例を持ちません。なので、アホな大人たちが実際に大挙して流入しま
した。
これに業を煮やした長野市などは、市のレベルで同様の条例を定めました。なので、長野県ならオールオッケーというのは間違っています。
そういった条例の中では、「淫行」した者が処罰されていることが多いです。
しかし、この「淫行」という概念がわかりにくい。ただのセックスも含まれるの?
これについて、最高裁は、要約すると、「少女の無知に乗じて行う性行為や、性的搾取のような性行為」が淫行になるといっています(最高裁大法廷判決 昭和60年10月23日)。
その理由としては、真摯な恋愛に基づくセックスまで禁ずるのは行き過ぎだから、
少女を食い物にするロリコンオヤジだけを処罰する、と限定的に解釈しようということです。
さて、「淫行」との関係では、児童福祉法34条1項6号との関係も問題となります。
同号は「何人も児童に淫行をさせる行為をしてはならない」と定めており、罰則も規定されています。
条例による処罰と思いっきりかぶります。
これについては、東京高裁が、大枠、淫行のきっかけを与えた場合が児童福祉法違反、
淫行しただけの場合は淫行条例違反という解釈をしています(東京高裁判決 平成8年10月30日)。
これに沿う最高裁の判例も出ました(教え子にバイブで自慰させた教師が児童福祉法違反とされた)ので、妥当な解釈だと
思われます。
なお、援助交際的なものについては売春防止法の適用がありそうなもんですが、
売春防止法はもっぱら女子の側を処罰するものなので、ここでは検討しないこととします。
処罰されるかどうかはともかく、何歳のセックスがどのような犯罪の構成要件に該当するかを考察します。
13歳未満の少女とセックスするのには同意の有無にかかわらず強姦罪が成立します。
そして、13歳以上18歳以下であっても同意がなければ強姦罪となります。
青少年(18歳以下とする場合が多い)と淫行に当たるようなセックスをした場合には条例違反を問われます。
13歳未満の少女と淫行した場合には、強姦罪と条例違反の双方が成立しますが、重い強姦罪で処断されると思われます。
淫行は同意があろうがなかろうが成立します。
逆に、これらを避ければどんなセックスも思いのままです(少なくとも法的には)。
というのが刑法・条例の解釈ですが、処罰されるかどうかは別です。
まず、大前提として、バレなければ当然ですが処罰されることはありません。
そして恋愛関係でのセックスの場合は、13歳以上ならば強姦にも淫行にもなりません。
法定強姦であっても親告罪ですので、13歳未満で恋愛感情があった場合には告訴はないでしょう。
しかし、いつかはバレるものですし、関係が破綻した後に嫌がらせで告訴される場合もあるでしょう。
また、被害者が処女だった場合は通常は処女膜裂傷という傷害結果を伴うので、
強姦致傷罪となり、非親告罪となることに注意が必要です。
男性も少年であった場合には、14歳未満であればそもそも刑事訴追されませんし、
それ以上の場合も、あまり大事にならない可能性が高いでしょう。
13歳未満 同意があっても恋愛感情があっても強姦罪、ただし親告罪、ただし処女膜裂傷の場合は非親告罪化
13歳以上18歳未満 同意があっても、淫行となるような場合には処罰される
18歳以上 同意がない限り処罰される
もっとも、バレなきゃ処罰はなく、恋愛感情の元なら世間に露見することもあるまい。
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