「あ、なんだろう」
郵便受けに封筒が入ってた。差出人は不明。
中を開けると、20万円が入ってた。
ちょうど、お金の無かった私は、何も疑うことなくそのお金を使わせてもらうことにした。
だって、私宛ての住所で届いてるのだもの。
きっと両親が仕送りしてくれたに違いない、うっかり差出人の住所を忘れてしまっただけなのだろう。今度電話でも着たときにお礼でも言おう。
まあ、恨みの気持ちというのは、なかなか消えないが感謝の気持ちなんてのは豊かな生活が一瞬で忘れさせてくれる。とうぜん私は翌日にはそんなことを忘れていた。
丁度一週間くらいたった頃だろうか、両親から電話がかかってきた。
しかし、父と母がかわるがわる私の声を聞こうと電話を取り合うのを見て、あいかわらずでなんだかおもはゆい。
やはり、我が子の声を聞きたくなる時というのが。あるのだろう。
そこで先日の封筒のことを思い出した。
となると、あの封筒の送り主は誰なのだろうか。
翌月、また封筒が届いた、やっぱり茶封筒で差出人は不明。
中には20万円。よく見ると、切手に消印が押されてない事に気がつく。
今回はお金だけじゃなくて、一枚の小さな便箋が入っててそこには
『あ り が と う』
とボールペンで書かれた綺麗な文字。
すこしだけ怖くなった。このお金はどうするべきだろうか。
結局なやんだが、金欠でもないので使わずにおいておくことにした。
その翌月もまた翌月も、そしてまた……
必ず月に一回、それも私の知らないうちにポストの中に封筒が届いていた。
怖くなって、私は引越ししたのだけれど、やっぱり必ず一ヶ月に一回送られてくる封筒。
私はもうどうにかなってしまいそうだった。
必ず、封筒にはありがとうだけが書かれた便箋。
気がつかなかっただけで、最初の月から入っていたのかもしれない。
警察に言っても、冗談か何かだと思ってまともに取り合ってくれない。
怖い、怖すぎる。誰だろう、こんなことをするのは。
私はノイローゼになって眠れなくなってしまった。
他人から言われる「ありがとう」の言葉に過剰に恐怖するようになった。
病院で薬ももらったけれど、けっきょく仕事にならなくなってしまい会社も辞めた。
だから、どうせ眠れないのだからと体を丸くしてずっとドア前に座って
じっと、郵便受けをにらんで、私をこんな風にした人を待ち構えることにした。
眠らず、じっと。
私をこんな風にした人間の首根っこをつかんでやりたかったのだ。
物音がするたび、私は浅い眠りから覚め、郵便受けに入った物を確認する。
大抵は、ダイレクトメールや店の広告で、目当てのものではなかった。
どれだけ経っただろう、玄関先には破れた紙くずが一面に広がっててまるで、出来損ないのコラージュみたいになっていた。
すえた臭いにも、もうなれた。私は玄関に根を下ろした植物になっていた。
ごとん。
また、何かが郵便受けに落ちた、また、確認して、やぶる。
ごとん
確認、破棄。
ごとん。
確かめて、破る。
ちょっと、作業に疲れたので、玄関のコラージュに目を通すと
いつの間にかビリビリニ破れた諭吉が混じっているのに気がついた。
もう、新しい紙くずの層で埋もれそうになってたソレを掘り起こす。
根の張った私では、もうソレに会うことは出来ないことを悟った。