2007-06-01

(2007/06/01 公園ギャング団)

シロツメクサが一面に咲いた児童公園に、黒いマフィアの一団が集結していた。

彼らは実質この街の支配者だ。

直立二足歩行を行い無駄なことばかりしている生き物から、

やすやすと日々の糧を拾い上げ、間違ってもあくせく働くようなことはしない。

王者の特権のごとく、朝は日の出と共に街中の空を雄叫びを上げながら滑空し、

夜になればねぐらに帰って宴を開く。

それをうとむ森の同族たちも少なくはなかったが、

その真っ黒な体躯や圧倒的な数を誇るその集団に、まったく対抗しあぐねていた。

そんなマフィアの一団の中でも、ひときわ立派な毛づやをした者がいた。

おそらく彼はマフィアボスだろう。集団の前にばさりと飛び降りた。

彼は黄色くて真っ平らで、一見ひどく美味しそうに見える物体・・・黄色いケーキを、

その刀剣にも似た真っ黒な嘴でくわえていた。

頭首の到来に全員が敬意を表した後、集団の中で、一番若いひとりが口を開いた。

ボス

「なんだ」

ボス、ずいぶん美味しそうなものを抱えていますね。』

「ああ、これか。欲しいのか。」

『いや滅相もない。ただ、それは俺たちが知らないものなので、

 いったいどんな天国のような味がするのかと、ちょっと好奇心が沸いたのです。』

言葉とは裏腹に、若者の目はぎらついている。

「それはそうだな。しかし、お前は馬鹿だ。」

『・・・・・・・?』

「これは意地汚いお前らには食い物に見えるかもしれないが、とても危険なものだ。」

『そうですかねぇ、黄色くて柔らかそうでとっても美味そうですが』

「だから馬鹿野郎と言っているんだ。」

『・・・すいません』

「まずお前は、俺たちがどうやってこの街に君臨したのかわかっているのか」

『えっと、長く鋭い刃のクチバシ、夜闇より深い漆黒の翼、誰にも負けない誇りに満ちた眼、でしたっけ』

「そうだ。しかしそれではせいぜいこの街を仕切るのが精一杯だ。

 昼も夜も、我らが世界の限りを飛び回るには、もっと強力な武器が必要なんだ。

 お前にそれがわかるのか。」

『・・・すいません。しかし、そうなるとそれがその武器ってわけですか?』

「当たり前だ!だからお前は学がないんだ。いいか。これは拳銃ダイナマイトのような

 チンケな武器とは違う。持っているだけで相手を脅せる究極の兵器なんだ。」

『・・・・・・。』

「もしその気になれば、こいつを使えば、小さな国ならまるごと吹き飛ばせる。

 だから出来ようが出来まいが、とにかく持っていることが重要なんだ。」

「お前達はただ毎日エサを喰らい、実にもならないことをだらだらとしゃべり、

 無駄に子孫を増やして寝腐るだけだ。もし俺のようなボスがいなかったら、

 お前らはとっくにスズメのエサになっているだろうよ。」

『・・・すいません、ボス

「そうだ。もっと感謝しろよ。俺がただ何かをしていると思うな。俺のやることには

 必ず意味があるんだから、お前らは少しでもその小さな頭を使って俺がいかにお前らの

 事を考えているかを想像して、俺のために動くんだ。わかったか」

『はい、ありがとうございます、ボス

その後も頭首の演説は続いた。

小一時間ほどして、ボスが唐突に演説の終わりを告げた。

「じゃあ俺は行くからな。俺が帰るまでには、ちゃんとねぐらを整えて、

 いつでも戦いに備えられるように準備しておくんだぞ」

『もちろんです、ボス。行ってらっしゃいませ』

その言葉を聞かないうちに、ボス秘密の隠れ家に向けてあっという間に飛び去っていった。

もちろん、咥えていた黄色いスポンジケーキは、隠れ家で美味しく頂戴した。

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