http://anond.hatelabo.jp/20070419001713
「もう一人二人ぐらい来るかと思ったんですけど」
「昨日の今日ですからね。いくらなんでもいきなり過ぎました」
「私と一人だけでカラオケするのが嫌だって言うなら一人だけでカラオケして帰りますけど」
「そんなことありませんよ」
はてなのIDを聞かれたり、その由来を語ったりしながらしばらく歩いたらパセラに着いた。
受付を済ませると、受付のお姉さんがいきなり鐘を鳴らして
「トレジャーハンターチャーンス!」
と叫ぶ。
「部屋に財宝が隠されています!このヒントにしたがってお宝を見つけたら会計時に受付までお持ちください!」
少し呆気にとられたが、伝票を受け取ってエレベータ前へ移動する。
「凄いわ…私あんなの絶対無理ですよあんなの」
そもそも入った時から「魅惑のチキルーム」と同じ音楽が流れていた。
「あんなキャラ作って明るく振舞うなんて!非コミュの私には無理!」
「いやあ、お仕事だからできるんじゃないかなあ」
部屋に入ると、太一郎はソファーに座り込んで「ふぇーっ」と息を吐いた。
彼女が笑う。
「なにを溜息ついちゃってるんですかいったいっ」
太一郎は自分が緊張していたのを自覚した。
「いやー、おじさんだから」
「そんなー」
ぐずぐずしている隙に、リモコンやマイクなどてきぱきと準備されてしまう。
「じゃあお先に入れますっ」
「はいはいどうぞどうぞ」
Zガンダムやサイボーグ009など何曲か歌い、それぞれのアニメについてちょっとづつ思い入れを語っていく。
「会社で行くカラオケじゃアニソン歌えないんですよー。気を使ってJPOP歌ったり」
「確かにね。前の会社じゃあ最初は気を使ってたなあ僕も。今は既に変な人ポジションを獲得しそういう会社に行ったから問題ないけど」
それをきっかけに、会社や仕事に関する話に話題はシフトしていく。
職場の偉い人の非コミュな人に対する「配慮」が「余計なお世話」になった話。
太一郎はその話で、自分の前にいる人物が誰なのか気が付いた。
はてな匿名ダイアリーで一時期「ヤリマン」というハンドルで話題になっていた人だ。これで風体にも納得が行ったし、彼女には何を置いても大切にしている彼氏がいて、なおかつ何人かつまみ食いをしたうえで上司と揉めているわけだ。
なぜだかは判らないが、彼氏と彼女の関係性に思い至ったことで肩から力が抜ける。自分もまだまだ男の子だったのだな、と太一郎は思う。
「それでねー、辞めるな3年は勤めろってみんな言うんですよー」
「それはそうだよ。ステップアップ考えると3年や5年はひとつの職場にいなきゃ」
「えーそんな我慢できなーい。なんで我慢できるんですか?増田さんは」
「問題起こした両親みなきゃいけないとかあったし。長男だし。男の子だからさ」
「両親の問題が無かったら?」
「それでも自分のために我慢するかなあ。3年勤められる、というのは『私は我慢できます。職場から逃げません』と証明する簡単な方法なんです」
「えー」
太一郎は自分の事例を話した。初対面の人間にすらすら自分の情報を出していく自分がうかつなのは判っていたが、相手のガードが低いのに釣られていた。
歌をぽつり、ぽつりと入れていくが、頻度が下がっていく。あまりに歌の量が少なくて、話しているときに隣の部屋の歌が気になるぐらいだ。
「これは明らかにガンダムSEEDですね」
「くっ…SEEDなんて嫌いだ!対抗してやる!」
哀戦士など歌ってみたりする。でも、話すほうが多い。
「非コミュとかあるじゃないですか。あの楽しそうな仲間に入りたい、入れない、とか」
「僕はもう最近あまり強く思わなくなってきたなー」
「えー」
などと他愛ない話を続ける。
「宗教に誘われたんですけど、私が一日何回もお祈りできると思うのかと言ったら誘われなくなりました!努力なんて無理!」
「あー宗教はね、無理だと思うよ。あれはね、特に現代の新興宗教はね、MMORPGなんだ」
太一郎は説教を始めている自分を自覚していたが、止められなかった。
「MMORPG?」
「モンスターを長時間倒していればレベルが自動的に上がって名士になれる。お金も手に入ってやりほうだい。頑張れば頑張っただけ報われるはず。お布施をいっぱい収めたら救われてほしい。いっぱい祈ったらきっと救われなくてはならない。頑張ったら絶対にそれに対する良い報酬がある。頑張らなかったら、悪いことをしたら報いが来る、世界はそうなって欲しい、そういう考えかたにもとづいているの」
「そ、それじゃ私は救われないじゃないですか!宗教もダメなのかよ!」
「でも、現実はRTSやFPSなんだ。頑張ったって、積み上げたって、自分の成長が無けりゃ勝てない。成長したってたまたま銃弾の先にいれば倒れる。残念ながら」
「だから自分に必要な我慢なら先を見据えてしなくっちゃ、誰も助けないよ」
「先を見通すとか無理ー。無理無理ー。なんでみんなできるんだろう」
「なんでかは自分でもわからないよ」
最後に、一般人とカラオケする時に手加減して何を入れるかという話に戻ってきた。
「それで手加減してんのかよ!私はSPEEDです、ちょっと古いけど」
「なつかしいなー」
「なんじゃこれキー高え!」
「だって子供の歌ってる曲だし」
「じゃあ僕はアリスー。『冬の稲妻』」
「オヤジキラーの曲を入れてやる!『ひと夏の経験』」入れたる!」
「これは確かにオヤジキラーだなあ。小さいころに聞いた覚えがあるよ」
時間が来た。もっと話したいなと未練を残しつつ、パセラを出る。会計の時に宝探しの結果を渡したら、またディズニーランド風味に鐘を鳴らされたりしてびびった。
「早稲田にあかねって店があってマスターが日替わりらしいんです。今日は、はてなダイアラーの人がマスターやってるらしいんですけど行きません?」
まあこれもひとつの経験だろうと考え、太一郎はついて行くことにした。
(つづく)
増田太一郎は焦っていた。 待ち合わせの時間が近いのに、電話が一向に繋がらない。 「おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか、電源が入っていないため、かかりません...
http://anond.hatelabo.jp/20070419001713 「もう一人二人ぐらい来るかと思ったんですけど」 「昨日の今日ですからね。いくらなんでもいきなり過ぎました」 「私と一人だけでカラオケするのが嫌だ...
http://anond.hatelabo.jp/20070419001713 太一郎が相手の顔を知らないのにはわけがある。 はてな匿名ダイアリー、匿名の日記が集まる所。そのうちの一人が設置したやはり匿名のチャットでつい...
http://anond.hatelabo.jp/20070422000431 その頃無口な増田たちはカラオケボックスで黙々とカードゲームをやっていた。
http://anond.hatelabo.jp/20070419001713 http://anond.hatelabo.jp/20070422000431 「なんだか物によっては周辺の2次創作だけ抑えて判った気になってしまうんです」 「そ、そりゃいかんですよ。僕は原作を極...